東京都市町村立図書館長協議会除籍資料再活用プロジェクト事務局 西東京市下保谷図書館 中川恭一 はじめに 東京都市町村立図書館長協議会(以下「館長協議会」)*は、『今後の都立図書館のあり方』(東京都教育庁、2002年1月)が公表される前後から、市町村立図書館と都立図書館との関係保全のための協議を重ねてきた。 都立図書館所蔵資料の除籍・再活用問題や都立図書館からの協力貸出について、また、2004年度末を以って解散した東京都公立図書館長協議会(以下「東公図」)とこれに代わる東京都公立図書館長連絡会の設置、『都立図書館改革の基本的方向』(2005年8月、第二次都立図書館あり方検討委員会)の公表と意見表明までである。 こうした中、館長協議会の下部組織である多摩地区図書館サービス研究会が、『東京都市町村立図書館の除籍に関する調査報告書』(2002年1月)をまとめ、市町村立図書館の書庫が飽和寸前であることや、年間49万冊にのぼる資料の除籍実態を明らかにした(ここまでの経過は、本誌2003年4月上旬号を参照)。 さらに、同研究会は『都・市町村立図書館の除籍資料をどう再活用するか~今後のあり方への提言』(2004年2月)を館長協議会に提出した。多摩地域の共同資料保存センターの実現を模索し、このためのプロジェクトチームを設置する、5万冊については二年間の保管延長と2005年度内に最終処理を行うことなどが盛り込まれた。 このため、2004年度当初館長協議会内に、除籍資料再活用プロジェクトチーム(以下「プロジェクト」)が組織化され、課題に取り組んできたところである。その議論のおおよその方向と、5万冊の処理経過を報告し、あわせて年度終盤のイベントの紹介を行いたい。 プロジェクトでの検討課題 プロジェクトは館長職4名、図書館サービス研究会3名、係長会議3名の計10名で構成され、報告書作成の目標を「多摩地域の今後の資料共同保存・相互利用のあり方を構想し、その実現を図る」と設定した。これは、大量除籍への対案を対置した、多摩地域の図書館をむすび育てる会(以下「多摩むすび」)による『東京にデポジット・ライブラリーを』(ポット出版 2003年12月)に刺激を受けたことは確かである。 除籍調査報告では、多摩地域の公立図書館の書庫収容能力450万冊に対し、すでに90%が占有され、年間増加冊数34万冊を想定すれば現在ではゆうに書庫からあふれかえっている計算になる。当時すでに13自治体で、書庫の書架は上積み横積み状態であり、200%に達する自治体もあった。 これら、多摩地域の図書館の足元が明らかになってくるにつれ、ますます資料保存の考え方を共通認識とし、具体的な政策の提示が切に求められてきたと言える。 自由に図書をブラウジングできる開架式による直接サービスを補完し、鮮度の落ちた図書を速やかに収納し、利用者のリクエストや季節・行事などに見合った資料をストックしておけるバックヤードと、住民の財産である資料保存機能の両立こそ書庫の使命であった。その書庫機能の維持を求めて、資料管理の出口論としての分担保存や入口論としての分担収集が試みられてきたが、いずれも十分な成果をあげていない。 一自治体での保存に限界が見え始めた時点で、広域的な政策が望まれるところだが、今まで市町村立図書館は、都道府県立図書館にその責を負わせてきた歴史がある。いわゆる第一線図書館である市町村立図書館のバックヤードとしての都道府県立図書館論=第二線図書館論である。保存の責務については、『公立図書館の任務と目標』(日本図書館協会、1989年)、「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準(報告)」(2000年12月、文部科学省告示)にも都道府県立図書館の任務として明記されてきたが、ひとり都道府県立図書館のみに帰せられる問題ではなく、県下全域すべての図書館を組み込んで検討すべき課題である。 今まで都立図書館が実践してきた、広域的に資料を保存し共同利用することへの条件整備を緊急に設定することが、市町村に課せられた命題であることに気付かされたのである。 デポジット・ライブラリーの提案 年間除籍数49万冊のうち、37万冊が、市民へリサイクルされるが、この方法は、徹底的に資料を活かし切ろうとする態度ではない。是が非でもスペースを確保すべきである。 また、一般的なサービスとなりつつあるWeb予約によって、書庫にストックしていた資料までも頻繁に取り出されることになった。眠ったままだった資料が、蔵書の回転率を底上げし、書庫を拡張してでも利用を待ち受けるという姿勢が再評価されてきた。 しかし、一自治体内での空き教室利用によるストックヤードと物流との両立は困難であるという結論は動かし難い。また、書庫がいっぱいになったら除籍(廃棄)するのは、図書館が保存規定を曖昧にしてきたことに他ならない。購入→利用→除架→保存→共同保存・共同利用サイクルへの変換が必要になる。 われわれは、智恵を出し合って、共同して資料を蓄積し、相互に利用しあえる事業への政策転換を確認したい。 より効率的な資料保存のあるべき姿をモデル化し、過去に出版された全分野の資料を網羅して「利用のための保存」を実践するため、加えて、相互協力によって支えられてきた市町村間の資料提供ルートの確保のため、あらためて、デポジット・ライブラリー(共同保存・共同利用のための図書館、以下「デポ」)の創設を提案する。後世に残し伝えていく現代の文化遺産=生き証人たちの著作物を、常に利用できる財産として保存して行くべきではないだろうか。 政策コストの追究 各図書館の除籍資料を精査し、資料を一カ所に集中し保存する方法は、経済性、効率性からいってもメリットが大きい。そこに、デポの存在意義がある。 その設置には、組織上の主体をどこに置くかにより、①NPO法人、②一部事務組合、③地方独立行政法人、④民間企業への委託などによるデポが考えられる。 しかし、今日の自治体を取り巻く財政状況をみれば、デポの設置費用を捻出することの是非論を抜きに、各方面のコンセンサスを得ることは困難である。当プロジェクトは、この点をふまえて検討を重ねてきた結果、NPO法人による設置を追求すべきであるとの提言に達した。 NPO法人によるデポ構想は、すでに、多摩むすびが先進的に研究および発言をしているが、プロジェクトでは、50万冊規模の貸倉庫書庫、資料搬送費、3名の職員などを想定した結果、各自治体の資料費から、1自治体あたり180万円を削り出し、NPO法人のデポと、各自治体が個別に契約する方法を検討している。多摩地域30市町村で、年間5400万円の資金となる。これは、30市町村の年間資料費45億6600万円のわずか1.2%である。そこへ、年間50万冊に及ぶ除籍資料を共同保存・共同利用する構想である。 デポの設置場所は、各図書館からの除籍資料の精査作業、集中保存機能、再活用のための提供機能、配送システム、連絡調整機能などを考慮して決定すべきである。交通の便がよく、迅速な提供がはかれること、将来蔵書数が増大することに対応できるように保存スペースの拡張がはかれることなどを考察してきた。しかし、法人化NPOであれば、はこモノに頼らず、貸倉庫を活用した自前の施設、倉庫業者との提携、集密書架を集中管理する図書館什器関連会社などを巻き込んだPFIなどの手法も視野に入ってくるのではないかと考えている。都市機能が集中する市街地よりも、市街地に近い郊外で比較的交通の便が良いところが求められるのではないだろうか。 館長協議会では、これらの内容を報告書にまとめ、市町村へのパブリックコメントを求めた後、2月中旬には、より詳細な報告書の完成を目指している。 5万冊の動き 平成14年度に都立図書館が重複資料を理由に廃棄した5万冊は、館長協議会が、もう一度共同利用するための方策を検討する間、町田市の申し出により一時的に保管することにしてきたものである。 以来、4年間にわたり、廃校になった小学校の空き教室に留置したままだったが、プロジェクト内でワーキング・グループを立ち上げ、5万冊の処理にあたった。 そこで、箱詰めされたままの5万冊と市町村立図書館所蔵資料との関係性を明確にするため、次の4段階の作業を設定した。 ①5万冊を東京都の図書館横断検索にかけ所蔵自治体を割り出す、②町田市での箱開けによる未所蔵資料との選別作業、③所蔵自治体が保存資料へシール貼付作業を行う、④未所蔵資料の26自治体への分担保存を行うものである。 横断検索については、5万冊のうち、4万冊を26自治体が分配して検索にあたり、残り1万冊を多摩むすびを通じて40人の市民無償ボランティアの助けを借りて検索した。その結果、70%にあたる、約3万5千冊が重複分と判明した。このうち、多摩地域で1冊しかない資料が9千冊見つかった。どこにも所蔵がなかった資料は1万5千冊にのぼり、協力貸出として都立図書館の果たしてきた役割が再認識された。 町田市での作業環境が優れないことや、重複資料の最終処理を古紙処分することなどを危惧して資料の有効活用を図ろうと、武蔵野市図書交流センターが、5万冊の引取りと作業場所の提供を申し出られた。 新しい提案をいただいて、武蔵野市での1600箱の開封作業を実施する運びとなった。多摩地域の大学で司書課程履修中の学生に呼びかけたり、多摩むすび等市民ボランティアの募集により、有償ボランティア延べ55名、職員の動員延べ45名で5日間の作業を予定しており、今月13日から実施、見学も大歓迎である。 また、第四段階の分担保存については、当面武蔵野市での一括保存を検討している。 検索作業とともに多摩地域の図書館と市民が協力して作業に取り組むという画期的な事業は、5万冊を通じての資料保存事業への共同体験を意味しよう。1冊1冊の資料を手にした感想をぜひ、将来のデポに活かしたいものである。 館長協議会では、各自治体での除籍処理の統一的なマニュアルの作成、年間50万冊におよぶ除籍資料をスムースに、委託NPOによるデポへ集積させる仕組み作りなどを事業内容とした、資料保存委員会(仮称)を平成18年度早々に組織化することを提案し、実質的な論議を継続することを期待している。 図書館大会 館長協議会では、来年2月下旬に、「多摩地域図書館大会(仮称)」を開催する予定で準備を進めている。 2004年度末を以って解散した東公図は、5部会の年間活動のほかに、毎年2月ごろに都区市町村立職員のための研究大会を開催してきた。都立図書館は、区市町村支援を別の手法で再構成するために、東公図組織を解散したが、具体的なプログラムはまだ明確ではない。 そこで、館長協議会では、東公図解散の翌年に早くも多摩地域での職員研究大会の開催を意図し、広い議論を呼びかけようと計画した。これには多摩地域内でも賛否両論あり、従来型の運営でなく、新しい手法の検討を追究するべきとの声もある。また、実務担当者間の横断的組織が多摩地域には乏しく、唯一、30周年を迎える三多摩地域資料研究会の地道な活動があるばかりであったことから、今後の横断的な組織作りへの布石をも検討内容に加えてきた。 初年度の準備不足の中で、どの程度の内容を提供できるのかは未知数だが、分科会方式を取り入れ、講演やパネルディスカッション、シンポジウムなど盛りだくさんの内容である。 詳細が煮詰まり次第、市町村の協力を得て、多摩地域での図書館大会を成功させたいと願っている。 おわりに 東公図の解散によるダメージは、中小図書館の多い多摩地域でより顕著である。委託や指定管理者制度で揺れている中でも、実務レベルでの横断的な組織こそ、自分たちに必要不可欠なものである。情報の共有化と連携・協力によって、事業を推進してゆくパワーを生み出したいと願っている。 そのような中で、館長協議会は、プロジェクト報告の完成と5万冊の処理、図書館大会の開催など、本来、図書館が考えるべき広域的な課題の処理策や可能性の追求などに、ますます取り組むべき時代の要請を感じているところである。 *2004~2005年度任期、会長、西東京市小池博館長 |
【記録】多摩発、共同保存図書館をめざして~東京都市町村立図書館長協議会の動き 中川恭一 <出版ニュース2005年12月上旬号から転載>