| ○はじめに 2月、東京都市町村立図書館長協議会(以下、館長協議会)除籍資料再活用プロジェクトチームは、多摩地域公立図書館の除籍資料を原資とした、共同で保存し共同で利用する「共同利用図書館」の設置を提案する報告書をまとめ、館長協議会に報告した。本稿では、その内容を紹介し、館長協議会での取り組みについてレポートする。 本プロジェクトは、2004年2月に、館長協議会の下部組織、多摩地区図書館サービス研究会(以下、「サービス研究会」)が提出した『都・市町村立図書館の除籍資料をどう再活用するか~今後のあり方への提言』に基づき、2004年7月に設置された。館長職4名、実務者委員会(係長会議)3名、サービス研究会3名の計10名で、2006年1月まで24回の協議を行った。 プロジェクトの目標を「多摩地域の公立図書館が所蔵する資料の共同保存・相互利用のあり方を構想し、その実現を図ること」と設定した。 ◎『共同利用図書館構想』の背景 ○多摩地域図書館の除籍問題 サービス研究会では、先の提言をまとめるにあたり、『東京都市町村立図書館の除籍に関する調査報告書』( 1)を提出した。 市町村立図書館の蔵書合計は1,517万冊(2001年度、以下同じ)で、年間受入数83万冊に対し、49万冊を除籍している実態が明らかになった。受入数に対する除籍割合は6割にもなり、差引き34万冊が増加することになる。書庫全体の収容能力は450万冊で、収容率は90%。これでは2年もたない計算になる。しかも13市町村が100%を超えていた。一方、除籍後の処理として、リサイクル事業にまわされる図書数は37万冊で、除籍総数の76%に達している。 市町村独自の共同保存図書館(共同書庫)の必要性について尋ねたところ、多摩地域に必要という回答(14館)と、この問題は都立図書館がカバーすべきという回答(15館)と拮抗している。方法論は別にしても、多摩地域の図書館は、保存機能の必要性を強く感じていることがわかった。 ○東京都全体で考える時期に 今まで市町村立図書館は、その保存機能の多くを都道府県立図書館の書庫に依存してきた。しかし東京都では、都立図書館の資料保存方針の転換(2) によって資料の利用制限が強化され、都民が必要とする資料が入手しにくい状況が生まれている。また、保存期間についても永年保存から現有書庫の収容能力限りへと後退した。 本来、都道府県立図書館は、市町村立図書館を補完する第二線図書館として保存に関してもその責務を負うものと考えるが、東京都がその機能を低下させざるを得ない状況を冷静に見つめる中で、保存の責務をひとり都道府県立図書館のみに帰するのではなく、都内すべての図書館で取り組む課題と位置づける必要がある。 東京都も区市町村立図書館との連携について、とりわけ「都立図書館と区市町村立図書館間における収集・保存の分担について、協議の場を設け、検討する」(3) として、資料保存の新たな政策を呼びかけた。今後も協議の幅を広げ、新たな道を切り開く可能性を期待し、保存に対する具体的な対案を提唱する必要がある。 ○除籍・リサイクルから保存へ 書庫は、開架式の書架を補完し、鮮度の落ちた図書を収納して、季節・行事などに見合った資料を出し入れするバックヤードの機能と、いつでも利用者の請求にこたえられるために資料を永く保存し、蔵書を後世に残し伝えるための保存スペースの機能を持っている。その書庫機能の維持を図るため、これまで分担収集や分担保存が試みられてきたが、いずれも十分な成果をあげていない。 自自治体内で最後の1冊を保存するケースは多いが、書庫スペースが収容量を超えている多くの自治体では除籍作業を行っている。まず都立図書館所蔵資料との重複調査。次に、多摩地域のISBN総合目録検索による調査。多数の自治体が所蔵しているときは除籍するが、自自治体を含めて2自治体程度でしか所蔵が確認されなかった場合は、なかなか除籍に踏み切れない。しかも、有期保存を打ち出した都立図書館所蔵資料には頼れない。 他の自治体にはもう存在しないという事実を突きつけられるとき、保存スペースは限界であるにもかかわらず、保存すべきとする考えを受け入れざるをえない。この心理的な圧力を市町村間で共有しあい、一方的な資料の散逸を防ぐ仕組み作りを考える必要がある。 これらの作業により除籍された50万冊に近い数は、半端な数字ではなく、いくつかの図書館を維持することができる数である。当プロジェクトでは、住民が必要とする資料をいつでも活用できる仕組みとして”資料の共同保存と共同利用”の考え方を提言し、その上で不用資料の再活用を図りたいと考えてきた。すなわち、購入-除架-保存-共同保存・共同利用サイクルへの変換である。 ○共同利用図書館の設置へ 購入した資料は、自治体にとって公費で購入した住民の共有財産であり、処分するのにコストがかからないからといってリサイクルを持ち出すのは安易過ぎるという批判もある。また、蔵書点検後、この前借りた資料を探して図書館を訪ねても廃棄されてしまっている事例は、資料をリサイクルに委ねる限り永久に発生する。公費で購入した資料が簡単に無償で個人の所有となり、他の住民はその資料を二度と使うことができない状況を生み出しているとも言える。多摩地域のすべての図書館からその資料が捨てられてしまうこともありうる。自分の街の図書館の蔵書が最終的に多摩地域の住民に役立つよう保存されるのであれば、共有財産化に有効な打開策を見出したことになろう。 近年、インターネットによる所蔵情報の公開が進み、書庫に眠っていた資料が利用者のWeb検索によって活用されるケースも増えてきている。これまで以上により多くの資料を長く保存し、住民の利用に供する必要がでてきている。 そこで、より効率的な資料保存のあるべき姿をモデル化し、市町村立図書館で除籍された全分野の資料を網羅的に収集することで「利用のための資料保存体制」を確立し、かつ「市町村間の相互協力体制」の強化を図るため、『共同利用図書館(共同保存・共同利用のための図書館)』の創設を提案する。この創設によって、後世に残し伝えていく現代の文化遺産=生き証人としての著作物を、いつまでも利用できる多摩地域の共同財産として保存して行くことが可能となる。 ○共同利用図書館のメリットと課題 共同利用図書館の発想は、とりわけ米国で展開され、特に「デポジット・ライブラリー(保存図書館)」と呼ばれている。 日本では、2004年4月から神奈川県立川崎図書館が「科学技術系外国雑誌デポジット・ライブラリー」を新たに構築し、運用を始めた。県内にある企業資料室等の保存スペースの狭隘化から廃棄を余儀なくされている学術雑誌を、県立川崎図書館の蔵書とし、横浜市港南区にある旧県立高校の教室を利用して整理・保存し、広く県民の調査研究に役立てようという試みである。 われわれの提案する共同利用図書館の原資は、武蔵野市(町田市から移管)に一時預りとなっている都立図書館が放出した5万冊と、市町村立図書館から除籍される年間50万冊におよぶ除籍資料である。各図書館の除籍資料の重複を精査し、資料を一カ所に集中し保存する方法は、経済性、効率性から見てもメリットが大きい。そこに『共同利用図書館』の存在意義がある。 これを、各自治体の図書館側から見直すと別の意味を求めることができる。 市町村立図書館は、除籍資料の希少性や数の多さを考慮することなく各自治体の判断によって除籍を進めることができ、保存スペース確保の重圧から開放される。そこでは、自館の閉架書庫は開架フロアをフォローするための一時的なストックヤードとしての機能を存分に活用することができる。狭い書庫しかない場合には、一時的ストックヤード(スペース)を共同利用図書館に一旦預けて、自館のスペースを拡張することも可能となる。この場合は、預けた資料も共同利用図書館の一時的な蔵書として活用することは可能である。 一方、共同利用図書館運営の課題としては、所蔵データの整備と管理が挙げられる。独自にデータ管理を行うか、都立図書館での横断検索に参加することが可能か、または都立図書館所蔵データに付随することなども、今後の協議如何であろう。 加えて物流の確保にも工夫が必要である。共同利用図書館から各自治体への物流とともに、自治体からの除籍資料の移動や一時的ストックヤードへの搬入など、倉庫・運送事業者のノウハウや宅配便事業者の活用など多角的な対応策が望まれる。 ○5万冊の処理を通しての方向性の確立 2001年10月、東京都立図書館は14万冊にのぼる資料の大量廃棄を発表した。この動きに危惧を抱いた職員・市民の手によって反対運動が展開され、都議会文教委員会審議に諮られたが継続審議扱いとなり、事実上都立図書館の決定を覆すには至らなかった。それでも、一般資料約11万冊のうち半分の5万冊を、館長協議会で協議の上、共同保存のために町田市で一時保管することに決定した。これ以後、都立図書館は運営方針を大きく変更し、協力貸出業務を縮小し始めた。貸出期間の短縮やレファレンス資料・高価本・昭和25年以前の資料の停止など、瞬く間に対都民への貸出制限が始まったことは記憶に新しい。 以来、4年間にわたり、5万冊は町田市の廃校になった小学校の空き教室に保管したままだったが、当プロジェクト内でワーキング・グループを立ち上げ、5万冊の処理の検討にあたった。 まず、5万冊を東京都の図書館横断検索にかけ、所蔵自治体を割り出した。4万冊を26市図書館で、1万冊を市民無償ボランティア40人の助けを借りて検索した。その結果、70%にあたる、約3万5千冊が重複分と判明した。このうち2万6千冊は参加自治体で所蔵しており、タイトルごとに所蔵自治体を指定し、保存シールを貼付して保存する作業に移行しつつある。 武蔵野市立図書館のご好意により、町田市の保管場所から武蔵野市図書交流センターへ作業場所の変更が行われ、多摩地域の館長、職員延べ64名、有償ボランティア延べ91名を巻き込んで、都合6日間の作業となった。 今回の一連の取り組みは、多摩地域の図書館が全館協力して資料保存に取り組むという画期的な事業であり、その意義は大きい。共同利用図書館が多摩地域の全図書館に関わる共同事業として展開できることを予想させる先行事業と言ってもいいであろう。その過程で市民参加を呼びかけ多くの参加を得たことも非常に貴重な経験であった。 ◎『共同利用図書館』における政策コストの追求 現在の財政状況から、個々の自治体で保存スペースを確保することは困難である。しかし、個々の自治体の自主性を尊重しながら、共同でできるところは協力し合うことでコストの削減を図ることは可能である。 この提言は、図書館固有の課題というよりも広域行政の一環と考えたい。また、都立図書館や区部の図書館でも同様の課題を抱えており、東京都全域で共同利用を考えるならばさらにコストを削減できる。保存スペースがないから資料を捨てる発想から、経済性や効率性を考えた共同保存スペースを確保して、利用のための資料保存を実現するという発想に転換する。自治体図書館が抱える書庫問題を解決し、住民の広範な資料要求に応える体勢を強化すべきである。 その設置について、組織上の主体をどこに置くかを検討した結果、”NPO法人による設置と運営”を追求すべきであるとの結論に達した。 NPO法人による『共同利用図書館構想』として、50万冊規模の貸倉庫借用費用、資料搬送費、職員人件費などを想定した結果、1自治体あたりの負担が200万円弱という試算を得た。廃校などの遊休施設で展開した場合は、1自治体あたり103万円まで縮減できる。多摩地域30市町村の年間資料費14億6,600万円のわずか2.1%、年間3,096万円の資金で運用可能と判断した。都立図書館、あるいは区部の図書館の参入を視野に入れるならば、負担はさらに軽減されることになる。 ○総論賛成、各論はこれから プロジェクト報告は、市町村からの意見を集約して館長協議会に提出された。趣旨には賛成だが、いざ資金運用が可能なのか、各自治体のコンセンサス(コストへの理解)や参加自治体を増やす方策、NPO法人のメリットや受け皿となるNPO組織があるのかなど、検討材料も多い。 また、図書館を超えた広域行政の課題として、東京都教育長会や市町村自治調査会への提言まで広めなければ実現は覚束ない。資料をいかに残していくか。そのシステムをつくることが、図書館員の責務となるだろう。 2月、館長協議会主催による、第1回多摩地域公立図書館大会を開催した。最終日には、プロジェクトの提言報告とパネルディスカッション「多摩地域の資料保存と共同利用を考える」を実施した。パネラーに、津野海太郎氏(和光大学教授)、沢辺均氏(ポット出版代表取締役)、松尾昇治氏(昭島市民図書館)を迎え、堀渡氏(国分寺市立恋ヶ窪図書館)の司会で、報告書を叩いていただいた。 保存理念の再構築は時代にとって必要となるだろう。都立の除籍問題で「除籍するな!」のスローガンには違和感を持った。自分達も除籍をしていながら他に対してそうするなという矛盾、批判だけなら誰でもできる。自分たちで対案を作った点が大きい。 地方自治的なあり方の面からも評価できる。インターネット検索がさらに普及すると日の当たらない書庫資料の活用が広がる。保存ができていないと対応できない事態をよく考える必要がある。資料(市場)価値はあるのだから、もっと楽しくできないか。 県が主体的に取り組んでいる事例として、91年にできた滋賀県のセンターがある。市町村の除籍データを県立と突合せ、ないものは県立で共同保存している。都立もこの構想案に巻き込めないか。この案は戦略で、これからは戦術。楽しくやる方法も考える。各自治体では、財政担当、市長、議会などへ働きかけ、市民への説明も必要になる。 NPOの予算算出に無理がある。民間からの試算も参考にしてはどうか。また、役人のいいなりでなく、市民たちが力をあわせていくことが必要だなど、時間が不足するほどの内容であった。 ○おわりに この報告書は、『東京にデポジット・ライブラリーを』(多摩地域の図書館をむすび育てる会編、ポット出版、2003)から数多くの示唆を受けた。同会の試算では、土地および建設費の初期投資は16億円、1市あたり6,400万円の支出を構想した。当プロジェクトは、103万円をはじいたものの、自治体財政にとってはこの数字さえも壁の一つである。また、2004年度実績(4) では、受入れ80万冊に対し、除籍62万冊、年増18万冊へとさらに深刻化している。 しかしながら、武蔵野市図書交流センターでの市町村職員と市民との共同体験をはじめ、デポジット・ライブラリーを標榜するNPO組織が誕生する動き(5)など、確実にその水流が増大してきている。館長協議会においても、今後どのような戦術・戦略を固めていくか、今動き出したところである。 (1) 松尾昇治「東京都市町村立図書館の除籍に関する調査から」『図書館雑誌』(Vol.97 No.4 2003年4月号) p.240-3 (2) 2002年1月東京都教育庁「今後の都立図書館のあり方」および、2005年8月「第二次都立図書館あり方検討委員会報告-都立図書館改革の基本的方向」 (3) 前掲、東京都教育庁2005年8月、p.20 (4) 『日本の図書館2005』(2006.1,日本図書館協会)より算出 (5) 多摩地域の図書館をむすび育てる会から、「NPO共同保存図書館・多摩」が発足予定 (なかがわ きょういち:西東京市中央図書館) |
【記録】多摩地域「共同利用図書館」の設置に向けて:NPOによる共同出資事業化の提案~東京都市町村立図書館長協議会の活動から 中川恭一 『図書館雑誌』6月号から転載
