【記録】『多摩地域から東京の図書館を考えるプロジェクト』中間報告

2003.01.12

        多摩地域から東京の図書館を考えるプロジェクト

もくじ

はじめに

1 東京にデポ(Deposit Library)を作ろう
 デポジット・ライブラリー(Deposit Library)とは?
  ①言葉の定義
  ②県の動き、国の動き、大学の動き
    (ア)神奈川県のデポジット・ライブラリー構想
    (イ) 国立国会図書館の動向
    (ウ)国立大学図書館協議会の共同保存構想

(1) なぜ東京にデポを求めるのか?
  ①東京都の図書館政策における保存の役割の転換(永年から有限保存へ)
    (ア)1970「図書館政策の課題と対策」における”保存”
    (イ)多摩図書館建設にあたっての”保存”
    (ウ)1999(平成11)年度、保存方針策定。
    (エ)2001年1月 都立図書館再編計画における”保存”
  ②条件は整いつつある
    (ア)ITの進展
    (イ)OPAC公開館の増加と都立図書館主導の横断検索の一部実現(2002.12)
    (ウ)図書へのISBN(International Standard Book Number)付与
    (エ)多摩地域では、「予約情報」「探しています」など、他館の所蔵調査が定着。
    (オ)書庫スペースが各図書館で満杯もしくは満杯に近くなっており、毎年やむを
       得ず相当数の除籍をせざるを得ない状況が生まれています。
  ③いつまでも、図書館の蔵書として利用するために
  ④国立国会図書館があれば良いのか?

(2) 今すぐ必要な機能、一歩進めた機能
  ①資料を一箇所に集めること
    (ア)分担保存より共同保存を!
    (イ) 市町村のバックアップを前面に出した多摩図書館の15年
  ②除籍資料をリサイクルペーパー製造に直行させない
  ③必要な資料を必要な時に必要な人に届けること

(3) 私たちの考えるネットワーク作りの基本
  ①市区町村の自主性
  ②多摩地域の公立図書館から始める

2 これからの図書館-課題と対策

(1) 図書館の役割分担
  ①国立国会図書館
  ②東京都立図書館
  ③市町村立図書館
  ④区立図書館
  ⑤学校図書館
  ⑥大学図書館
  ⑦専門図書館・類縁機関

(2) 「市民の図書館」のステップアップ作戦
   
3 多摩地域デポジット・ライブラリーの基本的な対応

(1)デポ構想に向けた基本的な考え方
  ①デポの基本的な機能
  ②資料の収集と購入
  ③デポで収集する資料の選別
  ④個人への資料提供
  ⑤サービス内容の限定
   (ア)レファレンス機能を付加する事も可能であるが、今回のデポ構想では、レファレンス機能はもちません。
   (イ)学校に対する総合的な学習等への直接的な支援業務は、各市町村立図書館の基本的なサービスであり、今回のデポ構想では行ないません。
  ⑥組織体としての活動範囲

(2)運営主体の検討
  ①都立図書館が運営主体となるデポ
  ②多摩地域の自治体の共同運営となるデポ
  ③NPO法人を設立して運営主体となるデポ

(3) プロジェクトとしての運営体制(案の案)
  ①基本母体
  ②具体的な業務遂行組織
  ③運営に対する基本的な考え方
   (ア)NPO法人が関与する事業は、デポの運営に特化し、各自治体の図書館運営には将来的にも関わらないことを基本とします。
   (イ)”公”に縛られないNPO法人の利点を生かして、より自由で、豊かな発想力を持った運営を模索します。
   (ウ)各市町村図書館が抱えている問題にうまくコミットするような運営方針を立て、実施していきます。
   (エ)NPO法人と自治体がうまく連携して効率的かつ有効に機能するモデル事例として全国に発信できるような組織体をめざします。

(4)運営経費
  ①各自治体のデポ使用料の徴収
  ②寄付金・運営出資金・維持会員費
  ③補助金の模索
  ④自助努力による資金創出
  ⑤各自治体で廃棄となった資料の保存分以外の資料については、デポのリサイクル事業として相当の対価で販売を行ない、その収入も運営資金として活用します。

(5)運営場所
  ①当面は、公的機関の施設の利用を模索します。
  ②書架等の備品の確保は、さまざまな機関に呼びかけ、リサイクルとしての備品類確保に努めます。日本図書館協会、民間企業からの情報収集を行ない、その確保に努めます。

(6)物流
  ①当面、既存NPO団体との協力関係を模索しますが、基本は次のとおりです。
   (ア) 除籍資料の収集については、当該市町村立図書館からの搬入を基本とします。
   (イ) 資料の貸出・返却は、NPO法人が独自に行ないますが、毎週の都立の交換便を活用することも模索します。
  ②保険等の対応に対する考慮を考えます。
  ③物流コストの問題の検討

(7)資料の受入・管理
  ①書誌情報等の発信
  ②資料の受入
   
(8)課題の整理
  ①資料の移譲
  ②活動場所の借用
  ③リサイクル事業への運用
  ④職員体制
 
4 確立されたリソースセンター設立に向けた方策について(将来構想案)                  
(1)国家レベルでの対応
 
(2)地域レベルでの対応
  ①ICチップ導入-多摩地域での標準化した導入推進
  ②インターネットサイト共有センター
  ③大規模図書館
  ④著作権・「公貸権・貸与権」処理センター
  ⑤図書館システム運用センター
 

はじめに

 現代の公共図書館は、「市民の図書館」を目指して大きく発展し、サービスの内容も充実してきています。その基本的な機能は、資料提供であり、公立図書館は利用者が求める資料を最大限の努力を払って提供する役割を担ってきました。
 また、そのための資料収集にも力を注ぎ、各図書館独自の収集方針のもと、蔵書の充実に努めてきています。しかし、市町村立図書館には収蔵能力や財政力の限界があり、利用者が要求するすべての資料を収集・所蔵することは不可能です。そのため、その資料の不足や不備を補うための機能=第二線図書館の存在は欠かすことができません。
 これまで多摩地域では、都立多摩図書館が第二線図書館としての機能を果たし、独自の資料収集を行ないながら、市町村立図書館等をバックアップしてきました。
 しかし、2001年、都立図書館の運営方針が突然変更され、地域分担制をやめ、資料の一元化管理のもと原則1タイトル1冊収集、そして保存年限も永年から有限年数保存となり、手始めとして既存の複本の除籍を強行し始めたのです。
 除籍された資料については、再活用という名のもとに都立図書館が区市町村立図書館などに引き取りを求め、任意に分散移譲を行っていますが、資料そのものの消滅は免れましたが、資料のバックアップシステムに大きな欠損を生じ始めています。
 以上のような状況に対して住民や図書館員を中心とした反対運動が巻き上り、都議会請願等の対応がなされたわけですが、都立図書館が上記の方針を撤回するには至りませんでした。
私たちは、都立図書館がこの方針を撤回しない以上、我々独自の方針を立てる必要性を痛感し、都立図書館に頼らない、都立図書館に代わる第二線図書館を構想する道を選び、本プロジェクトの中で、具体的な対応案の検討に入りました。
 未だ中間報告の段階ですが、ここでは、新たな第二線図書館としての『多摩地域デポジット・ライブラリー(デポ)構想』の基本的な考え方や運営体制について検討した内容を報告し、その実現に向けた方向性を探ってみたいと思います。

1 東京にデポ(Deposit Library)を作ろう

デポジット・ライブラリー(Deposit Library)とは?
 ①言葉の定義
  「デポジット」という言葉自体は、既に日常生活の中でも用いられるようになっていますが、この報告書では、デポジットライブラリーを次のように定義します。
  複数の図書館がそれぞれ除籍した資料を共同保管し、住民の求めに応じて共同利用できるよう、所蔵情報提供、物流を主な業務とする保存センター。
  除籍資料の共同保管は、各館の蔵書が利用者にとって常に新鮮で魅力ある構成に保つことが可能になるよう、日常的な利用頻度の少ない資料を将来の利用に備え、適切に保管しておくことを目的とします。蔵書は、当面共同利用用と永年保存用を各1冊備えることとしますが、事情によっては、この限りではありません。
 ②県の動き、国の動き、大学の動き
  (ア)神奈川県のデポジット・ライブラリー構想
    「神奈川県内の公立図書館のデポジット・ライブラリー構想について」(本報告) 平成13年9月10日 神奈川県図書館協会
    「神奈川県図書館協会による運営」と「市町村と県による共同運営」を提案
  (イ) 国立国会図書館の動向
    1990(平成2)年に国立国会図書館独自の「保存協力プログラム」を策定し、これに沿って原資料保存及びメディア変換等を進めています。
    これによれば、昭和前期までの国内刊行図書の多くは、近い将来インターネット上で閲覧が可能になりそうです。(http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data_preservation.html参照)
  (ウ)国立大学図書館協議会の共同保存構想
    「学術情報資源の安定した共同アクセスを実現するために-分担収集と資料保存施設-」 平成13年6月 国立大学図書館協議会情報資源共用・保存特別委員会
    「永久保存用」「copy delivery」「相互貸借用」の3点保存
    特定の大学を指定して保存する構想(まず、journalが対象)

(1) なぜ東京にデポを求めるのか?
 ① 東京都の図書館政策における保存の役割の転換(永年から有限保存へ)
  (ア)1970「図書館政策の課題と対策」における”保存”
    地区図書館の基本となる蔵書は、過去5年以内に出版された図書
    中心館の基本となる蔵書は、過去10年以内に出版された図書
    都立図書館の分担する機能
     地区図書館・中心館の基本蔵書内容を示したことにより、過去10年以前出版の図書については都立図書館が任を負う事を表明
    ・ 協力援助機能――区市町村立図書館に対して、書誌的援助、調査的援助、資料の貸出、その他の援助機能を展開
    ・ 参考調査機能――書誌、索引類、その他の検索資料を完備して調査研究を援助
    ・ 補完的奉仕――多摩の町村、島嶼町村等の空白地域および都心、副都心等の昼間人口密集地域における奉仕
  (イ)多摩図書館建設にあたっての”保存”
    デポジット機能を速やかに持つ事を多摩図書館運営方針の中に入れる
  (ウ)1999(平成11)年度、保存方針策定。少なくとも1点1冊は「永久保存」する事を決定。同時に、多摩図書館資料の有期保存をも決定。
  (エ)2001年1月 都立図書館再編計画における”保存”
    東京都は、書庫の削減不拡張(日比谷図書館分を削減)を決定。実際上長期保存を放棄。中央図書館が単独館での限定したサービスを行なうことを選択。
 ②条件は整いつつある
  (ア)ITの進展
    大多数の自治体で業務にコンピュータを導入。各館の採用書誌もいくつかに限定されており、重複調査を確実に行なうための条件整備ができてきています。
  (イ)OPAC公開館の増加と都立図書館主導の横断検索の一部実現(2002.12)
  (ウ)図書へのISBN(International Standard Book Number)付与
    日本での出版物にISBNが付与されだしたのは1980年代。1980年代末には、ISBNの付与率も正確度も高くなってきました。各館の主な蔵書が過去10年間に出版したもので構成されているとすれば、ISBNを検索キーとした重複調査の精度は高くなると思います。
  (エ)多摩地域では、「予約情報」「探しています」など、他館の所蔵調査が定着。他館への協力貸出をした実績のある図書については除籍対象から外す手立ても採られています。他館未所蔵図書の都立図書館での再活用の試行(平成13年度)が、都立図書館中期運営計画の一環として行われています。
  (オ)書庫スペースが各図書館で満杯もしくは満杯に近くなっており、毎年やむを得ず相当数の除籍をせざるを得ない状況が生まれています。
 ③いつまでも、図書館の蔵書として利用するために
  図書館で除籍した資料は、リサイクルとして住民に提供されることが多くなってきていますが、図書館以外の部署で使用した図書・新聞・雑誌は、単に廃棄するのみです。短くなった鉛筆や壊れた椅子を捨てるのも、図書を捨てるのも事務的には同じことです。しかし、図書館が所蔵している図書には、その本を特定するための情報が附加されていて、その情報が利用価値を高めています。
  資料を集めるためには、情報収集・収集基準作成・現物確認及び検討・発注・検収・支払いという手間をかけています。また、提供のためには、書誌及び所蔵データ作成・装備・配架、業務システムの維持、整架、補修などの手間をかけています。この手間が利用し易い状況を作り出しています。
図書館の資料は、利用し易いように加工されたもので、いつまでも図書館の蔵書として利用できる付加価値がつけられたものです。
 ④国立国会図書館があれば良いのか?
  納本制度があれば、収集に不安はないのでしょうか?
  制度さえあれば、万全ということはありません。不安がないのは、大手取次を通して販売されるものといっては言いすぎではないでしょう。
  国立国会図書館には、資料保存を専門にしたセクションがありますが、
  「国会図書館は、永久保存のための保存方針・保存の手立て」
  「市区町村立図書館は、刊行から10年程度の間にできるだけ多くの人に利用してもらうための保存方針・保存の手立て」と、双方の保存方針・保存の手立ては全く異なります。少なくとも、昭和25年以降刊行図書については、当分の間メディア変換される可能性はありません。刊行後100年程度は、区市町村と都道府県立の協同の力で資料提供を担う必要があります。
  まして、出版活動の大部分は東京の地場産業と言ってよいほどの実績があり、これを保護育成するのは、本来は広域 行政を担う都の役割です。

(2) 今すぐ必要な機能、一歩進めた機能
 ①資料を一箇所に集めること
  (ア)分担保存より共同保存を!
    利用者が所蔵館へ赴くことを前提にするなら(時間と体力と財力を全ての住民が均等に所有していることが必要ですが)、400館がそれぞれ特定の分野を分担保存することも机上のプランとしては成立しなくもありません。しかし、ある地域に住む(勤務する)人がすべて西洋哲学に関心を持っているとか、特殊言語に関心を持っているとかということは、ありえません。また、分野によって出版点数に差があること、同一分野でも社会情勢によって出版点数が異なることは当然のことです。あまり現実的でない考え方です。
    多摩地域では、これまでも雑誌の分担保存などに取り組んだ経験もありますが、持続させる事はできませんでした。
    一方、共同保存は特定の場所に相当量のスペースを必要としますが、効率的な運営が可能です。東京都が多摩図書館を建設して以来15年間は、共同保存庫の役割も一定程度もっており、資料の有効利用が図られてきました。そして利用者が所蔵館へ赴くのではなく、資料を利用者の下へ届けるのが前提でした。
  (イ) 市町村のバックアップを前面に出した多摩図書館の15年
    都心に近い、武蔵野市や三鷹市に住む人も都心から遠い奥多摩町や檜原村に住む人も東京都民として、自己規制をすることなく、等しく資料要求ができるように、都立図書館は市町村立図書館のバックアップを中心業務の1つに据えてきました。
    多摩図書館では、市町村立図書館の利用動向や協力貸出申込みを強く意識する事により、新刊書も含めた共同保存庫的な収集を行ってきました。このことにより、市町村立図書館が望む共同保存体制や、物の移動などの業務を確保してきたと言えるのです。
 ②除籍資料をリサイクルペーパー製造に直行させない
  東京都市町村立図書館長協議会が平成14年に行った除籍に関する調査によれば、図書館の除籍した本は、当該自治体内の別組織(学校・児童館など)での再活用が図られた後、市民へのリサイクルが一般的になっています。市民へのリサイクルがかなわなかったものについては資源回収業者の手に渡って、溶解処理され、リサイクルペーパーになります。
  他館の所蔵状況が容易に把握できない条件下では、直ちに市民リサイクルというのは当然ともいえますが、都民の知的生産物をどう保存していくかという観点で考えるなら、都内公共図書館がこれまでに創りあげてきたISBN総合目録の活用や横断検索の機能を生かし、市民リサイクルのタイミング以前に、将来利用が見込める資料を残す手立てを模索すべきです。これは、現時点では図書館のみが担える任務なのです。
そのため、当面は、市民へのリサイクル事業に回すなどの前に、デポに搬入の要否を確認するシステムを構築する必要があります。
 ③必要な資料を必要な時に必要な人に届けること
  東京都は一方的に協力貸出機能から手を引こうとしていますが、必要な資料を必要な時に必要な人に届けることは図書館の基本的機能であり、これを全都的に保証するために、都内の図書館のネットワーク構築を主導してきたのではないでしょうか。ようやく図書館の存在が、その自治体の住みやすさのバロメーターの1つに挙げられるようになった現在、東京都の都合だけで、この機能を後退させるわけにはいきません。デポは、所蔵情報の公開と同時に物流をも都立図書館の協力車並に保障していく必要があります。

(3) 私たちの考えるネットワーク作りの基本
 ①市区町村の自主性
 ②多摩地域の公立図書館から始める


2 これからの図書館-課題と対策

(1) 図書館の役割分担
  首都東京に住むわたしたちは、幸いなことに比較的身近な場所に、利用できるさまざまなタイプの図書館をもっています。
  わたしたちは、これらの図書館がそれぞれに役割を分担して、各館の特長を活かした多種・多様な資料・情報を効率的に集め、確実に保存・提供することを望みます。
また、タイプの違う図書館どうしが、今よりもっと相互貸借や複写サービスなどの協力を強めて、わたしたちの最も身近な場所にあり、日常的に利用できる市町村の図書館を窓口に、気軽に情報を手に入れることができるようになるとよいと考えています。
 ①国立国会図書館
  国立国会図書館は,法定納本制度に基づく、唯一の国内刊行物の納本図書館です。図書・雑誌・電子資料などを網羅的に集め、保存するとともに、その目録の作成を行っています。今後,納本制度が十分に機能するように努め、納本率を限りなく100%近くに高めて、市販ルートにのらない自費出版本なども積極的に収集していくことを望んでいます。
  国立国会図書館の役割として、文化的な資料である本や雑誌を「モノ」として、永久的に保存することがあります。原資料の保存環境を整えることと平行して、著作権保護期間が過ぎたり、著作権者の許諾を得た資料のデジタル化・マイクロフィルム化を行なう事業を一層進め、原資料の消耗を防ぎながら利用に対応できるよう整備を進める必要があります。国家的な事業として、現在国立国会図書館が所蔵している資料だけでなく、他の図書館などが所蔵している資料も、重要度が高いものから、デジタル化などを図って欲しいと思います。
  国立国会図書館の資料は、わたしたちが市町村や都道府県の図書館などで入手できない場合の最終的なよりどころです。しかし、身近な都内にあるからといって、市町村や都立の図書館で調査できることや入手できる資料を国立国会図書館で得ようとする安易な利用は慎まなくてはなりません。つまり、市町村や都道府県の図書館は、国立国会図書館の蔵書に安易に頼ることによって、未来永劫保存すべき文化的な資料を消耗してしまうことのないよう,一定の利用の見込まれる資料は,各市町村や都道府県の図書館自身が収集し保存しておくよう心がけなければなりません。国立国会図書館が「保存のための保存」の役割をもっているのに対し、市町村や都道府県の図書館には「利用のための保存」の役割が優先されています。
   国立国会図書館が所蔵する雑誌の利用に関しては、雑誌記事索引がインターネットで公開され、検索だけでなく個人の直接複写申込もできるようになって便利になりました。しかし、雑誌記事索引の採録誌・採録範囲は限られています。今後の雑誌記事索引のさらなる充実を望みます。
   また、国立国会図書館は,所蔵資料の網羅性を活かして,各図書館の資料で解決できなかったレファレンスの調査を行っていますが、回答までの時間がかかりすぎるのが実情です。回答のスピードアップをはかるため,レファレンスの組織・体制の強化が必要です。

 ②東京都立図書館
   東京都立図書館は、幅広い資料を収集し、都民に閲覧・レファレンスサービスを主とする直接サービスを行なうとともに、広域的なサービス、協力貸出・協力レファレンスなど区市町村立図書館のバックアップを行ってきました。
   しかし、都の財政難から大幅に削減された資料費の問題を背景とした今回の再編計画で、今後は原則として複本は購入しない、すでに所蔵している複本は除籍・再活用処分、と決まりました。このため、区市町村立図書館へのバックアップ体制が大幅に弱体化・後退しています。
   また、書庫は現有部分だけで増設等は行なわないとし、資料は有期保存という方針を打ち出したため、刊行年の古い資料が今後利用できなくなっていくことが予想されます。これまでに市町村立図書館が協力貸出を期待して都立多摩図書館に寄贈してきた逐次刊行物の今後の保存もあやぶまれます。滋賀県立図書館のように、県内に1冊しかない資料は最終的に県立図書館が保存する方針をとり、デポとして機能することをめざしているところもありますが、都立図書館はこの機能をもたないという決定をくだしました。
   都立図書館の再編は、資料収集率のアップをねらって地域分担から機能分担をめざしたものであるといいますが、実際には所蔵資料の分野分担であるにすぎません。都立図書館は、財政的にも施設的にも規模の小さい区市町村立図書館を支援する相互貸借センターとしての役割や広域的な保存図書館の役割を縮小・限定したうえで、今後区市町村立図書館に対しては、相互の協力による「自助努力」を求めていくという考えです。これからの区市町村立図書館は、いままで都立図書館が果たしてきたこれらの役割のうち何をどのように担って、市民サービスを維持し発展させていくようにできるか,最大限の工夫と努力が求められてきています。
   けれども、区市町村立図書館がどんなに相互の協力体制を強化したとしても、もともと都立図書館とは規模の異なる中小図書館がその役割の全てを肩代わりできるわけではありませんし、中規模の区市の図書館が,自館の利用者にサービスを行ないながら、同時に小規模の区市町村の図書館を直接的にバックアップできるわけでもありません。区市町村立図書館で購入しきれないレベルの資料の購入、それらの協力貸出などは、都立図書館が継続すべき役割のひとつです。
   都立図書館がその役割を縮小する中で、主な役割・存在理由としてあげられているのが、「区市町村立図書館で収集することが困難な専門書や高価本」などの収集資料を背景に行なう「高度・専門的なレファレンス」です。しかし、わたしたちが必要とし、かつ調査に困難を感じる情報は、必ずしも専門書や高価本のみで得られるわけではありません。わたしたちは、図書・雑誌・電子資料などさまざまな媒体の資料が、一般的なものも専門的なものも、長期間まとまった場所に保存され、常に調べ利用することができる状態であることを望んでいます。区市町村立図書館が、現時点で日常的に利用度の高い資料を中心に所蔵し、貸出を積極的に行なう形でサービスを展開するのに対し、都立図書館が主な役割をレファレンスに特化して「ワンストップ」のサービスを重視する方向に進むのであれば、本当は分野分担すら行なうべきではありません。調査はさまざまな媒体や分野にまたがって行なわれます。図書も雑誌も、社会科学も自然科学も文学も1箇所で同時に調べられるのが最も有効な形です。常に多様な資料の在庫があり、網羅的な調査に役立つこと、そしてそこに調査を支援する十分な人数の司書が配置されることが重要です。それによって、わたしたちは都立図書館へ行き、自分でさまざまな資料の中から必要なものを選び出すことができます。
   そうはいっても、わたしたちは誰もがいつでも時間と費用をかけて直接都立図書館に出かけて行けるわけではありません。都立図書館まで行けない人・いけない時、あるいは都立図書館に行って調べ当てた資料を手元において何日かかけて調査したいとき、協力貸出・相互貸借制度を利用して,身近な市町村の図書館から資料を借りることができなくてはなりません。都立図書館が単独で保存センターや相互貸借センターの役割を持たないのであれば、市町村と都が協力してその機能を果たす機関を作ることが必要です。都は広域サービスの観点から、その機関に施設的・財政的・人的支援を行なうべきであると考えます。
   また、他の図書館との連携に関しては、都立図書館は大学図書館との協力を今後深めるべきであると考えます。都立図書館が所蔵する行政資料・歴史的資料・専門的資料などは、大学における研究活動に有益なものが少なくありません。都立図書館が、資料の提供やレファレンスサービスの面で大学図書館を積極的に支援する計画をたてることを提案します。大学図書館への支援を強めることが、大学図書館の地域開放・区市町村立図書館との協力の一層の後押しになることを期待します。   再編計画の中において、都立図書館の学校図書館への支援が構想されていますが、学校図書館支援は地域の区市町村立図書館に任せ、都立図書館は大学図書館や専門図書館などへの支援・協力体制を強化すべきではないでしょうか。

 ③市町村立図書館
  わたしたちの住み・働く多摩地域の市町村の図書館は、歴史が30~40年程度と浅く、蔵書の幅もおおむねその範囲に限られています。また、各市町村の財政規模による制約から、いくつかの市の中央図書館を除き、図書館の資料費・施設・職員数・開館時間は、区立図書館より小規模かつ限定的であるのが現状です。
  同じ東京都のなかでも、区立図書館と歴史や経営規模の異なる多摩地域の図書館は、都立図書館再編による影響を最も多くこうむります。都立多摩図書館のサービスの変更は、もともと都立中央図書館のある広尾からは距離的に離れているわたしたちにとって、直接利用する際の不利益に加え、市町村立図書館への支援の点からも影響が大きいといわざるをえません。
  共通の課題をかかえる市町村立図書館は、今こそ長期的な視点を持ち、互いに協力しあう体制・組織をたちあげることで、多摩地域全体で効率的な図書館運営・サービスを発展させ、この状況を乗り越えていかなくてはなりません。
  財政難による資料費の削減・出版物の収集率の低下は都立図書館だけの問題ではありません。市町村立図書館も同様の問題をかかえています。経済・財政状況の変化があっても、その影響を最小限にとどめ、将来にわたってその提供を滞らせないためにはどのようにしたらよいか、一つの図書館だけで解決できる範囲には限界があります。それぞれの市町村の図書館は、主体性を持ってそれぞれの市民・利用者の日々の情報への要求にこたえることがあくまでも基本です。しかしそのうえで、個々の図書館ではかかえきれない資料の収集や保存、地域資料の書誌コントロールなどの点で、共同の機関・施設をもつことに関し、コスト・効率性の面から考慮していくべきです。各々の規模の小ささを理由にもたれあい・責任を押し付けあうのではなく、発展的に協力しあうことが重要です。共同の機関・施設を軸に、求められた資料を2~3日以内に手元に届けられる物流体制をつくること、コストや労力の適正な分担のあり方をさぐるなかで、利用者が住んでいる自治体を越えてどの図書館でも利用できる広域相互利用を一層すすめることを望みます。
  資料保存の点では、酸性紙資料の劣化を防ぐ対策、地震・火災・水害などの災害による資料喪失を防ぐ分散保存対策なども、共同で取り組む価値があります。資料保存は、将来的には博物館や公文書館などの機関とも幅広く協力して取り組む必要があると考えます。
  また、わたしたちは今後区市町村立図書館が、レクリエーション指向から調査・研究・生活支援にサービスの重点を移していくことを期待します。そして、幅広く豊富な蔵書と、資料についての専門的知識を持つ図書館司書の十分な配置により、常に満足できるレベルのレファレンスサービスが提供されるよう要望します。
  
 ④区立図書館
  市町村立図書館が共通の課題をもとに協力体制を強めるのと同時に、区立図書館どうしも協力体制を強化し、そのうえで市町村立図書館と区立図書館が連携することが必要です。
  区立図書館では現在も、地域ブロックごとに雑誌の分担保存や協力車の運行を行なうなど、協力体制を維持しているところがあります。しかし、全体的にみると、図書館法に基づかない図書館の存在や第三セクター・民間委託の広がり・図書館司書の配置率の低さなど、運営における責任体制のありようや方法のばらつきが協力を難しくする原因となることが予想されます。広い視野・長期的視点から、東京の図書館全体のレベルアップをめざして欲しいと思います。

 ⑤学校図書館
  多摩地域の公立の小中学校図書館は、いまだ資料も施設も人も不足している状況です。
学校の地域開放が話題となることが多い昨今ですが、まずなにより、学校図書館が学校図書館として十分機能するようになること、少なくとも子どもたちや先生が教育課程で必要としている資料を揃えて提供できるようになることを、わたしたちは要望します。
  学校図書館への専任の司書・司書教諭の配置、資料費の獲得、施設の整備、どれをとっても急務の問題です。個々の学校図書館を早急に充実させ、学校図書館間の協力体制をつくりあげ、資料を有効に活用する必要があります。
  市町村の図書館は、学校図書館の整備が十分にされるまでの間、団体貸出・レファレンスサービスなどの協力をできるかぎり行ないながら、学校図書館の整備を支援していかなければなりません。
また、都立高校図書館においても、学校司書の配置の継続、司書教諭と連携したサービスの一層の充実をはかることを希望します。
  各学校図書館は、各校の独自性を保ちながらも、小・中・高、また公立・私立の違いをこえて、共通の課題に関して情報の交換の場をもち、資料に関する協力が活発に行なわれるように努めるべきです。
  わたしたちは、子どもたちひとりひとりが学校図書館を通じて、学校教育の場で学ぶために必要な資料を十分に提供されると同時に、地域の中で市町村立図書館を利用し、幅広い興味・好奇心を満足させながらひとりの市民として育っていくことを願っています。

 ⑥大学図書館
  大学図書館の地域開放が、少しずつではありますが始まっています。
大学図書館が所蔵する専門的な資料、特に多種の専門雑誌・外国語資料は市町村や都道府県の図書館では収集しきれないものが多く、わたしたちにとって貴重な情報資源です。今後さらに地域開放や、市町村立図書館への相互貸借・協力レファレンスを充実させ、わたしたちにとっての敷居が低くなってくれることを期待します。
  資料の共同保存に関しては、国立国会図書館は国内刊行物を、大学図書館は外国語資料を、市町村や都道府県の図書館は地域資料を、という保存役割分担が言われることがあります。しかし、大学図書館においても、異なる大学間の共同保存はまだおこなわれていません。比較的扱いやすい外国雑誌の分担収集が、外国雑誌センター館として指定された9つの国立大学で実施されていますが、保存スペースの確保に困難をきたしている状況です。
   大学図書館の書庫スペースが限界に達しているなかで、東京大学・京都大学など大規模な大学図書館に広範な保存機能を付属させることや、地域ごと館種ごとに保存図書館を作るなどの構想が考えられているようですが、具体化しているものはありません。
   わたしたちの多摩地域には、多数の大学図書館があります。歴史や特色のある大学も少なくありません。市町村の図書館と各大学図書館や東京西地区大学図書館相互協力連絡会などの組織とが協力を深め、市民・学生ともに互いの立場を尊重しつつ、身近な場所でより多様な資料に接することができるよう、わかりやすく使いやすいルールづくりをしていくことが必要です。
   
 ⑦専門図書館・類縁機関
  わたしたちは、特色ある専門図書館が、一定の利用上の制限はあるにしても、公共図書館として一般市民に公開されることを大いに歓迎しています。そして、その活動を支持し、今後も多くの専門図書館がそのユニークな活動を続けていけるよう願っています。
しかし、私立図書館・資料室の大多数は、もともとスペース的に制約があり、資料の保存場所が十分ではありません。また、特に不況下では、母体の経営状況の波をうけやすく、閉館・閉室も多くなる傾向です。
  わたしたちは、これらの専門図書館などが、都立図書館や区市町村立図書館、大学図書館などとレファレンスサービス以外の面でも協力し、貴重な資料の活用・保存について、好ましい方向を探ってもらいたいと思います。  

(2) 「市民の図書館」のステップアップ作戦
  『中小都市における公共図書館の運営』(通称『中小レポート』日本図書館協会1963年)と『市民の図書館』(日本図書館協会、1970年)は、以後の公共図書館の活動に大きな影響を与え、その方向を決定づけました。『市民の図書館』が指し示した「①市民の求める図書を自由に気軽に貸し出すこと②児童の読書要求にこたえ、徹底して児童にサービスすること③あらゆる人々に図書を貸出し、図書館を市民の身近に置くために、全域にサービス網をはりめぐらすこと」という課題に、まず取り組んだのは、日野市立図書館をはじめとするわたしたち多摩地域の図書館でした。この実践により、市町村の図書館は大きく発展・拡大し、市民の生活に無くてはならないものになりました。
  それから30年、市町村の図書館・市民の双方が、資料・情報の活用に関して能力を高め、蓄積し、現在に至りました。
  いま再びわたしたちは、この多摩地域から、デポジット・ライブラリーの実践を第一歩として、資料・情報の蓄積、能力の蓄積を最大限に活かし、新たな創造を生み育むような、次世代の協力し合う図書館のかたちをはじめていきたいと考えています。

3 多摩地域デポジット・ライブラリーの基本的な対応

(1)デポ構想に向けた基本的な考え方
  図書館の所蔵(保存)機能は、無限ではありません。また資料もその価値に関係なく、古くなることによってその利用頻度は減少します。そのために各図書館では、利用頻度等を勘案して資料の除籍を行ない、そして最終的には廃棄しています。しかし、廃棄することは容易ですが、一度廃棄したものは永久に元には戻りません。今の図書館システムでは、資料情報の横断的な共有化が行なわれていないため、多摩地域で1冊しか所蔵がない資料でも廃棄されています。また、利用頻度が下がったとしてもその資料の価値が下がったというわけではなく、再活用が必要になることもしばしばありますが、廃棄によって将来の利用を妨げる結果ともなっています。このような状況を解決させるためにデポジット・ライブラリー構想を立ち上げるわけですが、より効率的でかつ合理的な運営を行なっていくための基本的な考え方をここで整理してみたいと思います。
 ① デポの基本的な機能
  多摩地域の複数の図書館で除籍した資料のうちの当面2冊までをデポで保存し、多摩地域の公共図書館等を対象に貸出を行ないます。
 ②資料の収集と購入
  デポでは、あくまでも都立図書館や市町村立図書館で不要となった資料を収集することを基本とします。したがって新刊資料などの購入は行ないません。なお、将来的には、民間の企業図書館や個人の蔵書等で不要になった資料を事業として収集することも検討します。
 ③デポで収集する資料の選別
  各図書館が除籍した資料の内、デポで保存する資料とリサイクル等にまわす資料の選別をどこが行なうのかという問題があります。除籍を行なった図書館がデポでの所蔵状態を検索し、デポで未所蔵の資料だけをデポに送る方法と、もう一つは、除籍された資料はすべてデポが引き取り、デポで保存資料とリサイクル資料に選別し再活用する方法とがあります。運営方法と深く絡む問題ですが、リサイクル事業を運営の柱とする場合には、後者を選択したいと考えます。
 ④個人への資料提供
  デポでは、個人への資料提供は行ないません。図書館利用者個人への直接の資料提供は、市町村立図書館が責任をもって行なうことであり、デポの機能は、市町村立図書館の資料の不足や不備をバックアップする第二線保存図書館に徹した機能です。
 ⑤サービス内容の限定
  デポは基本的に資料の保存倉庫及び資料の貸出機関であり、それを超えた機能はもたないことを当面の方針とします。次のような機能については、当該自治体の図書館が責任を持って行なうことだと考えます。
  (ア)レファレンス機能を付加する事も可能であるが、今回のデポ構想では、レファレンス機能はもちません。
  (イ)学校に対する総合的な学習等への直接的な支援業務は、各市町村立図書館の基本的なサービスであり、今回のデポ構想では行ないません。
 ⑥組織体としての活動範囲
  デポの活動範囲は、多摩地域から始めて、区部、そして近隣県へと拡大をめざします。しかし、当初は町田の5万冊を中心に多摩地域をテリトリーとした活動を行なうこととします。

(2)運営主体の検討
 運営主体については、もっとも大きな課題であり、実現の可能性を左右するといっても過言ではありません。ここでは、運営主体に関していくつかの可能性を提起し、それぞれについて検証してみたいと思います。
 ①都立図書館が運営主体となるデポ
  もっとも理想的な運営形態です。今までも都立図書館は区市町村立図書館の第二線図書館としての機能を担ってきました。しかし、今回の都立図書館の再編計画では、その機能をあえて放棄した形で進められており、再考は不可能な状態です。また、この都立図書館としてのデポ構想も、内部で検討された経緯があり、かつ実現しなかったというのが実態です。
 ②多摩地域の自治体の共同運営となるデポ
  都立図書館が運営主体となり得ない場合、多摩地域の自治体が共同で運営を担う組織体を設置することが望ましいと考えます。しかし、現状の各自治体の財政状況や、行政の図書館に対する理解度を勘案した場合、その実現性は低いと思われます。また、各自治体の足並みが揃わない限り、実現させることは不可能であり、すべての自治体のコンセンサスを得ることは、甚だ難しいと考えます。
ただし、この方法での可能性がないわけではありません。デポを一部事務組合のような広域的な組織体で運営する方が効率的で各自治体の業務軽減やサービスの向上につながるという有効な対案を提起できれば可能性はあると思います。
  また、東京都市町村立図書館長協議会の下部組織である「図書館サービス研究会」で、町田の5万冊の処理方法について検討を進めています。公的な部分での検討会ができており、その中で自治体を横断した形での運用方法も模索されています。したがって、公的組織体が広域で運営するという可能性も捨てきれるものではありません。
 ③ NPO法人を設立して運営主体となるデポ
   市民の自主的な運営形態としてNPO団体を設立し、デポの運営にあたるということが考えられます。市町村立図書館が除籍した資料を市民団体(NPO団体)が受け取り、有効活用を考えるというものです。NPO法人としての申請、運営組織の構成、活動場所(デポの設置場所)、あるいは資金調達など、公的なバックアップがない分、シビアな対応が予想されます。しかし、多摩地域には、調布市立図書館の委託問題をはじめとして、今回の都立図書館問題でも多くの市民が運動に参加しており、図書館を土台から支える市民活動が存在します。市民の図書館を市民が直接NPO団体として支えるという構想も不可能なことではありません。

(3) プロジェクトとしての運営体制(案の案)
  プロジェクト内部でも運営主体をどうするのか、最終的な結論が出せない状態というのが実態です。ここでは、「案の案」という形で次のような内容を提起します。
 ①基本母体
  今回の都立図書館再編問題を契機として『多摩むすび』という市民の組織体が立ち上がっており、その組織体がより有効に活動すること、そして市民の手で今回の問題に対案を提起するという意味から、本プロジェクトとしては、NPO法人を設立し、そのNPO法人を核として多摩地域の資料の有効活用と保存を考えていくことを提起します。なお、自治体によってはNPO支援の政策方針を打ち出しているところもあり、その方針を有効に活用したいと思います。
 ② 具体的な業務遂行組織
  NPO法人としての申請にはそれなりの時間がかかり、すぐに動き出すことはできません。当面の対応として、多摩地域にあるNPO団体との連携を図り、助言、バックアップを受けながら、より有効な業務対応を模索します。また、民間の企業(図書館関連企業)や日本図書館協会の支援が可能かについても検討します。
 ③ 運営に対する基本的な考え方
  (ア)NPO法人が関与する事業は、デポの運営に特化し、各自治体の図書館運営には将来的にも関わらないことを基本とします。
  (イ)”公”に縛られないNPO法人の利点を生かして、より自由で、豊かな発想力を持った運営を模索します。
  (ウ)各市町村図書館が抱えている問題にうまくコミットするような運営方針を立て、実施していきます。たとえば、リサイクル活動の一環として、各市町村立図書館の除籍資料の処分を一手に引き受けるとか、現状より時間的な短縮を図った物流システムへの対応などを検討していきます。
  (エ)NPO法人と自治体がうまく連携して効率的かつ有効に機能するモデル事例として全国に発信できるような組織体をめざします。

(4)運営経費
  ① 各自治体のデポ使用料の徴収
  ② 寄付金・運営出資金・維持会員費
  ③ 補助金の模索
  ④ 自助努力による資金創出
  ⑤ 各自治体で廃棄となった資料の保存分以外の資料については、デポのリサイクル事業として相当の対価で販売を行ない、その収入も運営資金として活用します。(ただし、”BOOKOFF”批判がある中では慎重な対応が必要です)

(5)運営場所
  ①当面は、公的機関の施設の利用を模索します。都の学校施設や市町村の廃校などを借り受けてそこで運営を行ないたいと思います。ただし、将来的には自動書庫機能を有した独自のデポを立ち上げることを構想し、その準備態勢を整えながら運営にあたります。
  ②書架等の備品の確保は、さまざまな機関に呼びかけ、リサイクルとしての備品類確保に努めます。日本図書館協会、民間企業からの情報収集を行ない、その確保に努めます。

(6)物流
  ①当面、既存NPO団体との協力関係を模索しますが、基本は次のとおりです。
   (ア) 除籍資料の収集については、当該市町村立図書館からの搬入を基本とします。
   (イ) 資料の貸出・返却は、NPO法人が独自に行ないますが、毎週の都立の交換便を活用することも模索します。これが可能であれば、毎日のデポと都立多摩図書館との連絡のみで貸出・返却の物流が完結するため、コストや安全面で大きなメリットとなります。ただし、特別に至急配送というような物流を考え、宅配便等を活用することも考えます。なお、この場合には資料を必要とする当該図書館の費用負担で行なうこととします。
  ②保険等の対応に対する考慮を考えます。
  ③物流コストの問題の検討
基本的にはNPO法人の負担としますが、ぜひ都立図書館の交換便を活用した物流を考えたいと思います。

(7)資料の受入・管理
  ①書誌情報等の発信
   コンピュータシステムの進展によって自前でのデータベース構築も可能になってきています。国立国会図書館等の書誌情報を活用してデポとしてのデータベースを作り、これをインターネットを使って発信します。
  ②資料の受入
   資料の受入については、受入順に資料番号を与え、資料番号順に配架します。したがって主題で並ぶような書架配架にはなりません。一番効率的な受入方法を採用し、できるだけコストの削減を図ります。なお、資料を入手するための方法はデータベース検索を基本とし、検索した該当資料の資料番号からその資料を提供することになります。

(8)課題の整理
  ①資料の移譲
   各自治体が廃棄した資料をNPO法人に処分を任されるための手続きの検討が必要です。公有財産の処分とその活用については、各自治体との合意が必要であり、そのための手続きを詳細に詰め、かつ合意を可能にするための交渉方法を検討する必要性があります。
  ②活動場所の借用
   活動場所の確保については、学校の空き教室等を模索しますが、これについても各自治体のコンセンサスが得られるとは限りません。公的な施設の借用に関する対応を検討し、その手続きについて検討する必要があります。
  ③リサイクル事業への運用
   NPO法人としての事業としてデポでの保存資料以外の資料をリサイクルとして市民への売却をして、運営資金にあてることを検討しますが、これに関する法的な手続きや売却方法などの検討を行なう必要があります。
  ④職員体制
   職員体制については、もう少し煮詰まった段階での検討事項とします。

4 確立されたリソースセンター設立に向けた方策について(将来構想案)
                  

  デポジット・ライブラリーの発展形として図書館のリソースセンターを構想したいと思います。
確立されたリソースセンターとは、資料のデポジットに限らず、広域的な図書館運営を推進する核組織と位置づけ、国家レベルと地域レベルで検討し、その実現を図るものです。 また、リソースセンターは、当初はデポジット・ライブラリー機能中心で発足させますが、将来的には、多摩地域を中心に広域的な役割を展望します。

(1)国家レベルでの対応
  国家レベルでは、この平成14年12月4日に成立した知的財産基本法(平成14年法律第122号)[http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki/hourei/021204kihon.html]があります。
  同法は、新たな知的財産の創造及びその効果的な活用を図るもので、地方公共団体にもその責務があるとしています。この知的財産のなかに著作物も含まれます。図書館は知的財産についての、もっとも基礎的社会資本として、同法の推進の対象となるべきです。
  また、e-Japan戦略の2002年では、重点政策5分野の中に「行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進」とあり、さらに出版関係団体と日本図書館協会による日本出版インフラセンターがICチップの添付を進めることから(文末参照)、「電子商取引等の促進」とも関係ができてきます。またに、ICチップの導入は、その利便性とともにプライバシー保護の観点からも、その機能、仕様について図書館界として、あり方を提言すべきです。
  また、資料保存の観点からは、文化審議会文化財分科会企画調査『文化財の保存・活用の新たな展開―文化遺産を未来へ生かすために』平成13年11月16日も活用できます。
[http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/11/011115/mokuji.htm]

(2)地域レベルでの対応
 地域レベルでは、多摩地域の広域事業として位置づけます。広域事業として位置づけるのは、経済効率の確保と、サービスの高度化を図るためです。同時に、継続的にデポジット・ライブラリーを運営していく基盤とするためです。
 各地方自治体が保存スペースを個々に設けて運用するよりも、リソースセンターで共同保存をした方が、経費を削減しながら、必要な資料要求に確実に応えていくことができます。
さらに広域的な役割として、
 ①ICチップ導入-多摩地域での標準化した導入推進
  標準化・規格化による高機能化、大量導入による低廉化を先のe-Japanの一環として行ないます。
 ②インターネットサイト共有センター
  インターネット環境の整備により、各事業者は、その事業活動としてホームページの立ち上げと、関係情報の掲載を進め、有用な情報入手の機会となっています。個人・グループにおいても同様です。しかし、膨大な量の情報群から有効なサイトを見つけ出し組織化して再活用することを個々の自治体で行なっていては、非効率的です。広域的な推薦サイト集の作成、発信する体制をリソースセンターが担います。類似例としてlii.org( Funded by the Library of California)[ http://lii.org/]があります。
 ③大規模図書館
  多摩地域の各図書館が所蔵する資料の範囲にはバラつきがありますが、より高いレベルの水準、たとえば大学専門課程から大学院レベルにも対応できることが求められています。しかし、これをすべての自治体で実現するのは困難であり、多摩地域を4ブロックとして、東部・北部・南部・西部に広域利用の大規模図書館を設け、同時に、その一つでは電話・メールレファレンスセンターとして24時間、多摩地域全域等から利用を受ける体制を模索する必要があります。
 ④著作権・「公貸権・貸与権」処理センター
  今後の出版に占める図書館のあり方は岐路にたっているといっても過言ではありません。出版に占める図書館の割合が拡大するのであれば、「公貸権・貸与権」を無視するわけにはいきません。それを統一的に、かつ広域的に処理する体制を模索する必要があります。
 ⑤図書館システム運用センター
  情報システムを複数自治体で運用し、システム経費削減やハード機器の一括管理・運用が、課題となろうとしています。この事例として、図書館システムを広域運用することも考えられ、その場合には、書誌統一運用を図ることも必要だと思います。
  『「電子自治体」と市町村の情報戦略 今こそe!TAMA as ONEを実現するために』 東京市町村自治調査会,2002.3 297p
 http://www.tama-100.or.jp/data/e!_TAMA_as_ONE.pdf


* 日本出版インフラセンター発足。基盤整備へ3委員会設置。運営委員長に野間省伸氏。 文化通信 
(2002-11-28,2002-12-2,4段,5面) http://www.bunkanews.co.jp/back/021202.html
 日本出版データセンター(JPDC)はこのほど、出版業界のインフラ整備を行なう組織「日本出版インフラセンター」に名称を変更し、ビジネスモデル特許、貸与権、ICタグに関する専門委員会を設置した。これまで個別企業や有志が進めてきた電子データ標準化など基盤整備を、業界4団体と日本図書館協会が出資する法人として同センターが担うことになる。11月28日、東京・神楽坂の日本出版会館で開いた記者会見で、実務を担当する運営委員長に就任した講談社・野間省伸取締役は「的確な対応をスピーディーに決めて実行していく」と述べた。(注:日本図書館協会の参加については確認中)
* ICタグシンポジウム、新インフラ導入に高い関心。JPDCに研究委設置へ。 文化通信
(2002-11-6,2002-11-11,3段,5面) http://www.bunkanews.co.jp/back/021111.html
 商品自体に超小型ICチップを貼付して、物流・商品管理、さらには盗難防止を実現しようという「ICタグ」導入についてのシンポジウムが11月6日、東京・音羽の講談社で開かれた。会場には出版社、取次、書店、印刷、防犯機器メーカーなど予定を上回る200人が参加、新たなインフラ導入に対する関心の高さを伺わせた。この問題は今後、業界横断のテーマとして検討が開始されるが、日本出版データセンター(JPDC)のテーマになることが予定されている。                         
【記録】『多摩地域から東京の図書館を考えるプロジェクト』中間報告

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