三多摩図書館研究所のあゆみとみらい

 設立

 調布市立中央図書館の委託反対運動[1]を担った有志メンバーは、「図書館政策の策定」と「紀要の刊行」とを目標とする「三多摩図書館研究所」を1994年11月4日に設立しました。その紀要が『図書館研究三多摩』です。その後5年間は順調に、毎年紀要を刊行しました。『図書館研究三多摩』創刊号(1996)、第2号(1997)、第3号(1998)、第4号(1999)、第5号(2000)。しかし、多摩地域の図書館の状況は年々悪化し、課題も多様化する中で、当研究所も休眠状態となり、紀要も休刊となりました。

 三多摩図書館研究所の再開とその後の経過

 有山崧[2]生誕100周年に当たる2011年、三多摩図書館研究所のメンバーが中心となり、実行委員会を結成し「有山崧生誕100周年記念集会」を2011年11月28日に開催しました。その後、『有山崧の視点から、いま図書館を問う―有山崧生誕100周年記念集会録―』を刊行しました。

1.再開 2012年3月~6月

この集会後、継続的な活動を展開するため、当研究所を再開することにしました。まず、多忙な現職者の参加を重視し、各図書館を会場にその図書館に相応しいテーマについて、当該図書館職員から報告してもらう学習会を、「多摩地域の図書館研究」という統一テーマで以下の通り開催しました。

 ①中川恭一「西東京市立図書館の現状と課題 図書館評価を通して考える」2012.3.25

 ②坪井茂美「府中市立図書館の現状と課題 PFI方式の図書館運営について」2012.6.16

しかし、現職者はほとんど集まりませんでした。

2.「連続学習会:調布市立図書館」の開催 2012年9月~2014年9月

 2012年から2014年にかけての中央図書館の委託反対運動後、直営を堅持し約20年を経て、自己変革を遂げ、見事な図書館運営を実現している調布市立図書館を対象に6回の連続学習会を開催しました。現在、調布市立図書館の専任職員数は63人です。しかし、それ以上の専任職員数がいる都道府県立図書館は、全国に4館(東京、埼玉、大阪、千葉)しかありません。各サービスの内容の充実、それを支える職員体制等の重要性をこの学習会で、学びました。

※調布市立図書館をテーマに連続学習会を開催しました。

①第1回 小池信彦「調布市立図書館の歩みとこれから」2012.9.29

②第2回 座間直壯「委託問題の背景とその後の図書館運営」2013.1.19

③第3回 五十嵐花織「レファレンスサービスの現状と課題」2013.7.7

④第4回 返田玲子「調布市立図書館のハンディキャップサービス」2013.11.17

⑤第5回 山口真理子・木住野正子「調布市立図書館の職員体制」2014.5.22

⑥第6回 黒沢克朗「調布市立図書館の児童サービス」2014.9.11

以上の内容を、調布市立図書館の特集号として、『図書館研究三多摩』第6号(2014)(①②③収載)、第7号(2015)(④⑤⑥収載)として刊行しました。

※第6号には砂川雄一(日野市立図書館第2代館長)「図書館に関する覚え書き」、第7号には、山口源治郎(東京学芸大学教授)「多摩地域の図書館の成果と課題」、戸室幸治「調布市立図書館の活動から図書館運営の基本を考える」も収録しています。

3.2015年

※図書館サービスの担い手である、職員の方々から話を聞く機会を持ちました。

①日野図書館の中堅職員の方々に、日野市立図書館の職員問題、について2015.6.20

②町田図書館の嘱託員の方々に、嘱託員制度の問題、について2015.9.26

4.2016年~2017年

※図書館の発展には、市民の方々による図書館づくり運動が不可欠と考え、町田市と多摩市で、図書館づくり運動の中心を担ってこられたお二人から話を聞く機会を持ちました。

①増山正子(町田の図書館活動をすすめる会)「市民活動と町田市立図書館との関わり」2016.5.1

②青木洋子(多摩市に中央図書館をつくる会代表)「市立図書館の再構築を目指して―多摩市の公共施設の見直し方針に抗して―」2016.10.2

*多摩市での青木さんの講演の後、「中央図書館づくりと地域図書館の再編問題の課題について」、出席した多摩市の市民の方々と話し合いを行いました。

※指定管理者制度の導入や公共施設の再編成等が各地で起こる中、安倍政権は、自治体や地域を、いかに変えていこうとしているのか、また、どのように変わりつつあるのか、を学ぶ機会として次の学習会を開催しました。

※進藤 兵(都留文科大学教授)「安倍政権が考える地域・自治体政策」2016.11.20

◆小牧市立図書館視察と「小牧の図書館を考える会」と懇談

※2015年10月4日、愛知県小牧市の新図書館建設計画を巡る住民投票が行われ、ツタヤを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)株式会社と連携した新図書館建設計画は、見直されることになりました。日本で初めてのこの状況を学ぶため2017年1月28日に、愛知県の一宮市立中央図書館を視察し、翌日1月29日、小牧市立図書館で山田久館長から説明を受け、住民投票の運動を推進してきた「小牧の図書館を考える会」のメンバーと懇談を行いました。

5.2017年

『図書館研究三多摩 第8号』の刊行とその合評会

※前記の町田市の増山正子、多摩市の青木洋子の講演録、及び戸室幸治の「『社会的共通課題』サービスの本格的な展開を―現代社会における図書館の本質的役割を考えるー」を収録した『図書館研究三多摩 第8号』を2017年6月20日、刊行しました。

※2017年7月8日、多摩地域で図書館づくり運動で活躍されている三名の方【住田啓子(元多摩市議会議員)、上田恵子(立川の図書館を考える会)、座間直壯(NPO法人共同保存図書館・多摩理事長)】をお招きして合評会を開催し、率直な批評をいただきました。

6.2018年度

◆「公共施設再編問題を考える」全2回連続学習会

※全国的に図書館を含む公共施設再編計画が進む中、公共施設の本質についてと、この問題に専門の建築家の見解とを、聞く機会として2回の学習会を開きました。

※第一回 学習会 「一人一人が主権者として生きる―その骨格としての公共施設―」

(「三多摩図書館研究所」と「町田の図書館活動をすすめる会」との共催)

※講師:池上洋通(自治体問題研究所理事・多摩住民自治研究所研究室長)2018.4.7

※第二回 学習会 「建築とは何か―公共建築の設計を通して考える事―」

※講師:大宇根弘司(元日本建築家協会会長)2018.7.7

※以上2氏の講演録と戸室幸治の「現状における多摩地域の図書館協議会の考察―あきる野市図書館協議会の実態を踏まえて―」を収録した『図書館研究三多摩 第9号』を2019年4月20日刊行しました。

7.2019年

◆「住民自治と図書館」全3回連続学習会

※基礎自治体(市町村)を住民の権利保障と民主主義を実現できる場に近づけていくことが求められています。その課題に、図書館は如何なる貢献をするのか、今後の図書館のあり方を考えるため、「住民自治と図書館」を統一テーマに、全3回の連続学習会を開催しました。

※第一回 学習会 「自治体と議会、主権者としての市民へ果たす図書館の役割」

※講師:江藤俊昭(山梨学院大学教授)2019.1.12

※第二回 学習会 「国立市における市民自治復権の試み」

※講師:上原公子(元国立市長)2019.3.31

※第三回 学習会 「国立国会図書館から自治のあり方を考える」

※講師:只野雅人(一橋大学教授)2019.6.9

※以上3氏の講演録を収録した『図書館研究三多摩 第10号』を2020年4月1日刊行しました。

8.2020年

◆学習会と論考

※「住民自治と図書館」というテーマで引き続き学習会を開催しました。

※早川和宏(東洋大学副学長)2020.12.13

※学習会「公文書管理と公立図書館―アーカイブズ機能が公立図書館にもたらすもの」

※戸室幸治が「公立図書館の飛躍を求めて―市民の自立支援と住民自治に貢献する図書館を考える―」を執筆しました。

※早川氏の講演録と戸室幸治氏の論考を収録した『図書館研究三多摩 第11号』を2021年3月25日刊行しました。

9.2021年

◆山口源治郎特集

※2021年は、あきる野市と、多摩市で、それぞれ図書館づくり市民団体が、東京学芸大学の山口源治郎先生による、講演会を行っております。良い図書館にするために市民はどの様にかかわる必要があるのかと、多摩市で進む新中央図書館に何を期待すべきか、という、今後の多摩地域の図書館にとって極めて重要なテーマです。

※「市民にとって図書館とは?―どのように考え、どうかかわれば良いのか―」2021.10.9(あきる野市中央公民館市民企画講座・図書館はともだちの会:企画)

※「新しい中央図書館に期待すること―図書館の第2ステージを考えるために―」2021.12.12(多摩市公民館市民企画講座・多摩市に中央図書館をつくる会:企画)

※これらの内容を中心に、来年2022年に『図書館研究三多摩 第12号』を刊行する予定です。

ところで、「三多摩図書館研究所」と、名称は大それたものですが、実態は、10人足らずの少人数のグループです。しかし、多摩地域で、重要な課題を、継続して追求し、整理し、議論の機会や場の提供を、行ってきました。

 みらい(これから)

※今後についてですが、現在までの経過を踏まえ、以下の三つを推進して行きたいと考えています。

①今後とも、タイムリーなテーマについて、主催や共催で、学習会、講演会、シンポジウムを開催します。

②市民、職員、関係者、議員などによる、緩やかな「意見交換の場」、「話し合いの場」を設けていきたいと考えています。

③実態として、「紀要」というより「雑誌[3]」に近い『図書館研究三多摩』というメディアを、多摩地域の開かれた図書館関係の「議論の場」としての役割を、更に充実・発展させていきたいと考えています。

 最後に、図書館は、知る、調べる、考える、学ぶ、そして、つどう、楽しむ、という極めて多面的な側面を持つ教育機関です。また、毎日の暮らしの中で、子ども達も、お母さん方も、成人も、そして高齢者も、正に幅広い市民が利用する教育機関でもあります。当研究所は、この図書館の発展・充実を求めて、今後も、多摩地域の「多摩住民自治究所」をはじめ、「様々な団体」と連携・協力を、強化していきたいと考えています。(2021.11.03)


[1] 1993年4月から1994年9月にかけて、調布市の新中央図書館の建て替えを契機に、管理運営を民間委託するとする、市の提案をめぐっての委託反対運動(詳しくは、『図書館研究三多摩』第6号、第7号を参照してください)。

[2] 元日本図書館協会事務局長、元日野市長。日野市立図書館スタート時の市長。日本における今日の公共図書館発展の基礎を築いた人物。

[3] 雑誌は、一種のサークルであり、フォーラムです。雑誌が一つの議論の場になっていて、そこにいろいろな人たちが集まって、新しいものを発信して、議論の場となっているからです。それが雑誌なのです。(岡本厚『これでいいのか! 日本のメディア』(あけび書房、2015)、より、P175.176「要旨」。岡本さんは、当時『世界』の編集長、前岩波書店の社長。)

三多摩図書館研究所のあゆみとみらい

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