【記録】除籍資料再活用検討プロジェクトチーム報告書

本報告の概要

 東京都市町村立図書館長協議会に「除籍資料再活用プロジェクト」が設置され、検討結果として『共同利用図書館構想』が打ち出された。その概要を説明する。

◎『共同利用図書館構想』の背景
 当プロジェクトの目標を「多摩地域の公立図書館が所蔵する資料の共同保存・相互利用のあり方を構想し、その実現を図ること」と設定し、検討を重ねてきた。
 多摩地域の公立図書館の書庫収容能力は450万冊で、ほぼ100%占有されており、加えて年間49万冊の資料が除籍されている。つまり、新たに購入した資料の分を除籍し、多くの図書館が、その資料をリサイクルという名目で住民に無償提供している。これは”本”が”ゴミ”として消えていくよりは、再活用されるという利点をもつが、本来、住民の共有財産として公費で購入した資料が簡単に無償で個人の所有となり、他の住民はその資料を二度と使うことができない状況を生み出しているとも言える。また、50万冊に近い数は、半端な数字ではなく、いくつかの図書館を維持することができる冊数である。当プロジェクトでは、住民が必要とする資料をいつでも活用できる仕組みとして”資料の共同保存と共同利用”の考え方を提言し、その上で不用資料の再活用を図りたいと考えてきた。
 図書館の書庫は、利用者が図書を自由に手にとることができる開架式の書架を補完し、鮮度の落ちた図書を収納し、季節・行事などに見合った資料を出し入れするバックヤードの機能と、いつでも利用者の請求にこたえられるために資料を永く保存する機能を持っている。その書庫機能の維持を図るため、これまで分担収集や分担保存が試みられてきたが、いずれも十分な成果をあげていない。
 今まで市町村立図書館は、その保存機能の多くを都道府県立図書館の書庫に依存してきた。しかし東京都では、都立図書館の資料保存方針の転換によって資料の利用制限が強化され、都民が必要とする資料を入手しにくい状況が生まれている。また、都立図書館では保存期間についても永年保存から現有書庫の収容能力限りへと後退した。本来、都道府県立図書館は、市町村立図書館を補完する第二線図書館として保存に関してもその責務を負うものと考えるが、東京都がその機能を低下させざるを得ない状況を冷静に見つめる中で、保存の責務をひとり都道府県立図書館のみに帰するのではなく都内すべての図書館で取り組む課題と位置づけることとした。
 多摩地域では年間49万冊の資料が除籍されているが、インターネットによる所蔵情報の公開が進み、書庫に眠っていた資料が利用者のWeb検索によって活用されるケースも増えてきている。今までは利用者の目に触れないバックヤードにあった書庫内資料のデータがインターネットを通して公開され、さらなる蔵書の有効利用が促進され始めている。したがって、これまで以上により多くの資料を長く保存し、住民の利用に供する必要がでてきている。
しかし、一自治体内で新たに書庫を確保することは困難であることも事実である。これを解決させる方法として、当プロジェクトでは、購入→利用→除架→保存→共同保存・共同利用サイクルへの変換が必要であるとの結論に達した。
 そこで、より効率的な資料保存のあるべき姿をモデル化し、市町村立図書館で除籍された全分野の資料を網羅的に収集することで「利用のための資料保存体制」を確立し、かつ「市町村間の相互協力体制」の強化を図るため、『共同利用図書館(共同保存・共同利用のための図書館)』の創設を提案する。この創設によって、後世に残し伝えていく現代の文化遺産=生き証人としての著作物を、いつまでも利用できる多摩地域の共同財産として保存して行くことが可能となる。

◎『共同利用図書館』における政策コストの追求
 各図書館の除籍資料の重複を精査し、資料を一カ所に集中し保存する方法は、経済性、効率性から見てもメリットが大きい。そこに『共同利用図書館』の存在意義がある。その設置について、組織上の主体をどこに置くかを検討した結果、”NPO法人による設置と運営”を追求すべきであるとの結論に達した。
 NPO法人による『共同利用図書館構想』として、50万冊規模の貸倉庫借用費用、資料搬送費、職員人件費などを想定した結果、1自治体あたり負担が200万円弱という試算を得た。これを、廃校などの遊休施設で展開した場合は、1自治体あたり103万円まで縮減できる。多摩地域30市町村の年間資料費14億6,600万円のわずか2.1%、年間3,096万円の資金で運用可能と判断した。都立図書館、あるいは区部の図書館の参入を視野に入れるならば、負担はさらに軽減されることになる。
 この間、都立図書館の資料保存方針の転換や、市町村立図書館の大量除籍の実態の根本には、自前で保存スペースを確保できないということがあった。
現在の財政状況から、個々の自治体で保存スペースを確保することは至難の業と言わざるを得ない。しかし、個々の自治体の自主性を尊重しながら、共同でできるところは協力し合うことでコストの削減を図ることは可能である。
 保存スペースがないから資料を捨てる発想から、経済性や効率性を考えた共同保存スペースを確保し、利用のための資料保存を実現するという発想に転換する。そのための具体的な提案が、NPO法人の運営による『共同利用図書館』である。
 この提言は、図書館固有の課題というよりも広域行政の一環と考えたい。また、都立図書館や区部の図書館でも同様の課題を抱えており、東京都全域で共同利用を考えるならばさらにコストを削減できる。今後の公立図書館がより深化した発展を遂げられるよう、図書館で除籍した資料を共同で集約し共同で活用する体制を整え、自治体図書館が抱える書庫問題を解決し、住民の広範な資料要求に応える体勢を強化するための提言をここにまとめた次第である。
多摩地域「共同利用図書館」の設置に向けて NPOによる共同出資事業化の提案

2006年(平成18年)2月
東京都市町村立図書館長協議会
除籍資料再活用プロジェクト
はじめに

 本プロジェクトは、平成16年2月に、多摩地区図書館サービス研究会が提出した『都・市町村立図書館の除籍資料をどう再活用するか~今後のあり方への提言』に基づき設置されたものである。
この提言には、多摩地域の共同資料保存センターの実現を模索するためのプロジェクトチームを設置する、5万冊については、二年間の保管延長と平成17年度内に最終処理を行うことなどが盛り込まれていた。
 本プロジェクトは、平成16年7月の発足以来、館長職4名、実務者委員会(係長会議)3名、多摩地区図書館サービス研究会3名の計10名で構成され、課題に取り組んできた。
 ここに、その成果を公表し、広く東京都全域での論議の深まりを期して、東京都市町村立図書館長協議会へ報告するものである。

2006年(平成18年)2月
東京都市町村立図書館長協議会
除籍資料再活用プロジェクト
目   次

はじめに1
 1 多摩地域図書館の除籍資料の現状…………………………3
 2 東京都立図書館、国立国会図書館の資料保存…….7  
 3 分担収集・分担保存の限界……………………………………11
 4 共同利用図書館の設置へ
   (1)共同利用図書館を提唱する…………………………15 
   (2)5万冊の処理を通しての方向性の確立…….19
 5 共同利用図書館の具体的な設置方法…………………..22
 おわりに……………………………………………………………………………30
 プロジェクト検討経過……………………………………………………31
 プロジェクトメンバー……………………………………………………32
1 多摩地域図書館の除籍資料の現状

【除籍資料の現状】
 東京都市町村立図書館長協議会多摩地区図書館サービス研究会では、都立図書館の再編計画による図書の大量除籍に端を発して、市町村立図書館における除籍と保存に関する実態調査を2002年(平成14年)に行い、11月に『東京都市町村立図書館の除籍に関する調査報告書』(以下、「除籍に関する調査報告書」)をまとめている。
 この報告書の分析については、2004年(平成16年)2月に出された『都・市町村立図書館の除籍資料をどう再活用するか-今後のあり方への提言-』に詳しく述べられているので、その内容を次に引用し、多摩地域図書館の除籍資料の現状を把握してみたい。

2 市町村立図書館の除籍に関する調査の概要
当研究会では、1の経過で述べたように都立図書館の再編計画による図書の大量除籍に端を発して町田市が預かった5万冊の有効活用を検討するなかで、都立図書館と同様に市町村立図書館が抱えている資料の除籍と保存という問題の実態を明らかにすることが必要であると考えた。そこで、各図書館の調査協力を得て、2002(平成14)年11月に『東京都市町村立図書館の除籍に関する調査報告書』をまとめた。私たちは、この調査を実施するにあたって、設問項目の柱をつぎにように定めた。
(1)市町村立図書館の資料状況(所蔵数、年間受入数、除籍数)はどうなっているか。
(2)除籍せざるを得ない理由はなにか。
(3)市町村立図書館の保存書庫の状況はどうなっているのか。
(4)除籍図書の処理方法のひとつであるリサイクルはどのように取り組まれているのか。
(5)多摩地区独自の共同保存図書館の必要性はあるか。
(6)町田市が預かった5万冊の有効活用について具体的な提案を知りたい。
 ここでは、本調査の結果からどのようなことが明らかになったかを簡潔にまとめてみたい。
わが市町村立図書館は合計1,517万冊(平成13年度、以下同年度ベースである。)という膨大な蔵書数を擁している。年間に受け入れる蔵書数は83万冊であるが、一方で年間49万冊を除籍している実態が明らかになった。受入数に対する除籍割合は6割にもなる。逆の見方をすると、年間34万冊(受入数-除籍数)が増加することになる。後述する書庫の問題と合わせて考えると、市町村立図書館においても都立図書館と同様に資料の除籍と保存の問題に直面しているとみることができよう。
 除籍理由の設問では、「汚損・破損によるもの」、「文献的な価値を失ったもの」及び「不明・紛失によるもの」が上位であるが、「書庫が満杯のため」という理由もあがっている。そこで、保存書庫の設問を分析してみると、専用書庫及び仮設書庫の違いはあるが、すべての図書館が書庫を設けている。書庫全体の収容能力は450万冊である。しかし、すでに400万冊が収容されていて収容率は90%にも達している。書庫の余裕は50万冊でしかない。前述の年間増加冊数(34万冊)からするとあと2年もたない計算になる。しかも13市町村が100%を超えている。保存スペースが不足しているということは、受入数を定数とすると今後除籍数が急激に増加することが予測できる。
 このような背景があるからであろうか、ほとんどの市町村でリサイクル事業が定着している。リサイクルにまわされる図書数は37万冊で除籍総数の76%に達している。つまり除籍の多くが住民へのリサイクルにより処理されていると言える。
 このようにみてくると、市町村立図書館における除籍と保存の問題は解決をせまられている今日的課題であるといえるのである。そこで、多摩地区市町村独自の共同保存図書館(共同書庫)の必要性について尋ねた設問をみると、多摩地区に市町村独自の共同書庫が必要という図書館(14館)と都立図書館の機能という図書館(15館)と拮抗している。共同保存を多摩地区独自で行うか、都立図書館の機能とするかの方法論は別にしても、多摩地区の図書館は、保存機能の必要性を強く感じていることがわかった。
・・・・中略・・・・・・・・・・・
 「本調査で明らかになったことは、都立図書館だけでなく市町村立図書館にあっても年間50万冊にも及ぶ除籍図書の問題があったということである。しかも保存スペースの不足から今後も除籍数は加速されて行くであろうと推測される。また、運営主体をどこが担うかという問題はあるにせよ、共同の保存スペースの必要性が求められていることは否めないことである」と述べて報告書のまとめとした。
 また、多摩地域全体の所蔵情報の共有化が行われていない現状では、各図書館で除籍される図書が、多摩地区で所蔵する最後の一冊の場合もあり得る。
 住民の財産としての資料をより有効に活用する手段を早急に考える必要がある。

 【除籍作業のゆくえ】
 書庫の占有面積は自治体の図書館経営方針や財政事情により不均等であることは、「除籍に関する調査報告書」の調査でも明らかにされた。この報告によれば、7千冊から52万冊まで、収容能力に自治体によって大きな差があることがわかった。中央館建設時はいうまでもなく、地域館を建設する際でも書庫への意識が以前よりは高まっていることは確かである。調査時点で、施設外に仮設書庫を設置している自治体も3分の1に上っていた。また、年間の受入数が除籍数を上回っているのも、書庫容量の充分な確保が各自治体にとって緊急課題であることを語っている。
 書庫の機能には、開架フロアをフォローする一時的なストックヤードとしての機能、蔵書を後世に残し伝えるための保存スペースとしての機能の二つの意味がある。たとえば、単行本で出版されたが、全集に収録された、文庫になった、新版が出た、という出版形態の変化がある。これに対して、書庫スペースの確保のために、全集や新版だけを残す方法と、資料の出版経緯を物語る形態別、版別に資料を保存し、後世のより深化した利用要求に応えるために保存する、という二つの選択肢がある。後者の機能は、資料を永く保存している都道府県立図書館の機能に委ね、市町村立図書館では前者の発想を優先させるという考え方もある。
 自自治体内で最後の1冊を保存するケースは多いが、書庫スペースが収容量を超えている多くの自治体での「除籍作業」の実態はどうであろうか。
書庫の容量オーバーだけで右から左に除籍をしている実態はほとんどないであろう。現状の利用度の判断に加えて、より正当性のある理由を求めて、担当者自身、いや図書館自身が回答を求めて苦慮しているのが現状であろうと推測される。
 除籍作業=著作物を棄てるという行為に痛みが伴うのはなぜか。不要と判断はしたが、いつ利用者が現れるかわからぬリスクや図書館利用者は当市の市民だけではなくこの資料を必要とする利用者がどこかにいるかもしれないという漠然とした不安感、活字文化や出版文化など文化遺産の一端を無にしてしまうことへの畏れ。仮に、除籍後リサイクルされて誰か市民の手に渡ったとしても、その人の役には立つのだ、悲観することはない、だが、1人の役にしか立たないではないかと疑心が巡る。
 加えて除籍担当者は、他自治体の情報を勘案して手中の本を除籍すべきかどうか判断する場合もある。まず都立図書館の蔵書検索から、その所蔵の有無を確認する。都立になくても多摩地域の30市町村が参加するISBN総合目録(注1) 検索で、ISBNナンバーを入力し、同じ資料が他の自治体に所蔵していないかを確認する。まだいくつかの自治体が所蔵しているときは、これらの自治体がこの資料の除籍に踏み出す前に、当方の資料を除籍しようと自ら弁明し除籍行為に踏み切りやすい。しかし検索結果が自自治体名のみの所蔵となったとき、あるいは、自自治体を含めて2自治体程度でしか所蔵が確認されなかった場合は、なかなか除籍に踏み切れない。
 市町村立図書館の資料保存と除籍はこのような閉塞状態のなかにある。では、都立図書館、国立国会図書館では資料保存はどのように位置付けられているのだろうか。


注1.2000年1月、都立中央図書館で、市町村立図書館のISBNデータを統合して運用開始。2004年2月より区立図書館を加えた「東京都ISBN総合目録」として統一


2 東京都立図書館、国立国会図書館の資料保存

 【東京都の政策転換】
 「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(注2) (以下、「望ましい基準」)において、都道府県立図書館の市町村立図書館への責務について述べられている内容を見てみよう。
都道府県立図書館の運営の中で、「市町村立図書館への援助」については5項目のうち、「資料の紹介、提供を行うこと」「図書館の資料を保存すること」を挙げている。
 また、市町村立図書館との連携・協力については、「都道府県立図書館と市町村立図書館は、それぞれの図書館の役割や地域の特色を踏まえつつ、資料及び情報の収集、整理、保存及び提供について計画的に連携・協力を図る」よう述べられている。加えて、都道府県立図書館が備えるべき施設・設備として「市町村立図書館の求めに応じた資料保存等」を挙げている。
 「公立図書館の任務と目標」(注3) には、「(図書館相互の協力)6 住民が必要とする資料は多種多様であるために、単独の図書館が所蔵する資料だけでは、要求に応えられないことがある。一自治体の図書館はもちろんのこと、設置者を異にする図書館が相互に補完し協力することによって、住民の多様な要求を充足することが可能となる」とある。
 また、第3章 都道府県立図書館、2 市町村立図書館への援助においては「県立図書館は資料保存の責任を果たすため、市町村立図書館の求めに応じて、それらの館の蔵書の一部を譲り受けて、保存し、提供する」とある。実際にこのことでは2000年(平成12年)度に東京都立多摩図書館で、館内部の資料再活用業務検討連絡会で検討、2001年(平成13)年3月に最終報告し、市町村立図書館の除籍図書の受け入れを試行していた経緯もある。さらに同様の方法を現在稼動させている滋賀県立図書館での資料保存システムなども検討に値するであろう。
 その一方で、都立図書館は、2002年(平成14年)4月に公開した「運営方針」で、「都立図書館は、資料の継続的、網羅的な収集を行うとともに、適切な資料管理を行い、将来にわたる利用のための図書館資料の長期的保存を図る」との基本方針を打ち出した。その具体的方針として、「原則として1資料1点を収集」、「書庫は、計画的に管理し、収集、保存、除架、再活用を適切に行う」としている。

注2.「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準について(報告)平成12年12月8日 生涯学習審議会図書館専門委員会、文部科学省告示第132号
注3.「公立図書館の任務と目標」日本図書館協会政策特別委員会、1989年1月公表

 この「運営方針」に基づき、2002年(平成14年)3月には「東京都立図書館資料収集方針」を定め、さらに「都立図書館の一体的運営を確保し、運営方針に定められた館の事業を円滑に行うため、必要な資料を保存し、活用するための基本的方針を定めることを目的」として「東京都立図書館資料保存方針」を、同年7月に定めている。
 「望ましい基準」との隔たりは一見なさそうに見えるが、資料の収集を1タイトル1点に限定し、複本は除籍、永年保存はせず、不要な資料は除籍してスペースを確保していくことを表現している。財政状況の逼迫が背景にあるとはいえ、先細りの頼りなげな長期設計である。
 2002年(平成14年)、都立図書館は、3館体制から中央館を中心とする体制に切り替え、レファレンス機能を前面に打ち出し高度情報社会への対応へと大きく舵を切った。レファレンス機能を補完する目的での区市町村立図書館への資料の貸出を公認しながら、一般的な資料でさえも自館の準レファレンス資料並みに扱い、1冊10万円以上の資料を貸出対象外にし、1950年(昭和25年)以前に発行された資料の貸出を中止した。区市町村立図書館への支援策はまず協力貸出ありきではなく、協力レファレンスや研修等へ一方的に転換を図った。
 このようにして、都立図書館の主張は、「望ましい基準」を遠巻きにした形で具体化し、区市町村立図書館との共同歩調とは一線を画す歩みを始めている。

 【問われる東京都立図書館の役割】
 われわれ市町村立図書館が、共同して資料を蓄積し、相互に利用しあえる保存書庫を運営するのは、都立図書館の事業に屋上屋を重ねることになるだろうか。
利用者からの求めに応じて資料を収集している市町村立図書館が、自館では資料を廃棄せざるを得ない段階で、自自治体も含めた多くの自治体に住む利用者のために、資料を共同保存・共同利用できるシステムを構想・構築するのは、当然の流れである。これらは、参加自治体間での相互利用になり、現状では、①都立図書館からの借用、②多摩地域内での相互貸借、③23区との相互貸借に加えて、④市町村立図書館の共同保存書庫からの利用、の4本柱になる。
このうち、①都立図書館と④市町村立図書館の共同保存書庫の資料が重複し無駄である、またどちらの利用を主体に考えていくのかという指摘があり得る。
 都立図書館の蔵書は専門書と参考資料、一般図書と児童資料、郷土行政資料等から構築されている。ちなみに、2005年度(平成17年度)の当初予算では、資料費1億8,500万円のうち、図書費は1億2,357万円(注4) と低迷しており、個人貸出を行っている日比谷図書館、児童青少年サービスを展開する多摩図書館とを併せた購入費であることから、全都をカバーするに充分な資料費であるとは言い難い。過去5年間の資料費と比較してみると年々減少し、2001年度(平成13年度)の2億5,906万円(但し、年鑑・新聞雑誌含む)と比べて半分以下の低落振りであることがわかる。この資料費では、レファレンス資料を充実させれば、より学術的な側面に偏った硬い一般図書と専門書しか購入できないと思われ、「東京都立図書館資料収集方針」に基づく収集は難しいであろう。

注4.『図書館雑誌』99巻8号,p.486, 2005.8、NEWS「速報都道府県立図書館と政令指定都市の図書館の2005年度資料費予算額」
 資料の収集方針・選定基準の中心軸は、都立と区市町村立では自ずと異なる。今までの都立図書館は予算に裏付けられた収集が可能であったが、このままの低額予算が続くのであれば建て直しは困難であろう。今までの蔵書の蓄積と一定程度の専門書群は都立図書館に頼らざるを得ないものの、都立図書館が専門書の収集に積極的に予算がつけられない状況が続くのであれば、今後は区市町村立図書館の資料選択と都立図書館との綿密な連携・協議・緊密化は進行しよう。
区市町村立図書館にとっても、都立図書館の予算がこのまま低水準で推移すれば、東京都全体での資料の蓄積が不充分となり、自自治体の利用に対しても、資料提供の保証を維持できなくなるおそれがある。自治体の購入資料の内容や予算の調整、複本の購入などについても変化が出るのは必至であり、除籍資料の再活用はより現実味を帯びざるを得ない。いずれにせよ、都立図書館が都立図書館として存在を主張していくならば、このまま、資料費減を受容するだけでは成り立たないはずである。都立図書館も資料費の増額を財政当局に認めさせる強力な取り組みが必要であろう。
 しかし資料費の減少だけが、区市町村立図書館へのサービス低下を招いているものではない。区市町村立図書館への協力貸出冊数が年々減少しているのは、都の協力貸出制限の拡大のためであり、区市町村立図書館が充実してきたからではない。区市町村立図書館にとって、都立が下支えとなってくれ、打ち出の小槌のような積極的な資料支援が期待できなくなった今だからこそ、市町村間の連携・協力と、都立図書館を巻き込んだ全都的な資料保存の新たな政策提言が求められているのである。
 このような状況の中、東京都教育庁は2005年(平成17年)8月に、「第二次都立図書館あり方検討委員会報告 -都立図書館改革の基本的方向」を公表した。都立図書館の本来の役割の一つである協力貸出は、都民が区市町村立図書館を通して資料を利用することによって成り立っているはずである。それを、レファレンスのための専門書の貸出に限定しようとすることがまず誤りである。さらに、東京都全体の資料収集・資料保存については、区市町村・大学などとの連携・協力を経ずにあらかじめ収集対象資料を限定している点、有期保存を打ち出した第一次報告(注5) を追認した点、日比谷図書館の地元区への移管など、納得しがたい点も多い。しかしながら一方で、区市町村立図書館との連携について、とりわけ「都立図書館と区市町村立図書館間における収集・保存の分担について、協議の場を設け、検討する」(同報告p.20)とあるのは、資料保存の新たな政策に結び付く一項目として注視すべきである。今後、収集・保存のみならず資料活用の方向性、都立図書館ホームページ上の横断検索の充実または所蔵情報に区市町村立図書館の所蔵情報を併記(NACSIS(注6) のようなイメージである)するなど協議の幅を広げ、新たな道を切り開く可能性を期待したい。

注5. 2002年(平成14年)1月24日東京都教育庁「今後の都立図書館のあり方」
 【国立国会図書館と都立図書館】
 わが国の保存図書館としては、国立国会図書館がある。国立国会図書館は、唯一国立の図書館であり、国内刊行物の保存を運営目的の一つに掲げ、納本制度を敷いている(国立国会図書館法第23~25条)。2002年(平成14年)10月には関西館が竣工し、2館で分担して資料を保存する体制が整った。これらはわが国の図書館政策として、保存がクローズアップされたものであり、基本的には館外貸出をせず来館閲覧者を対象にしている点が、他の図書館と大きく異なっている。区市町村立図書館に対しては、対図書館サービスとして各自治体図書館の窓口での閲覧を認めているが、あくまでも保存図書館としての機能が中心である。
 一方、都立図書館が協力貸出への制限(注7) をしつつ、国立国会図書館並みに、窓口での閲覧に限定しようとしている動きがあるが、都民に根付いた協力サービスを切り捨てることは、都民の知る権利を明らかに侵害するものであろう。都立図書館の有期保存政策は、本来の保存からは遠く、都民の身近な図書館での貸出がせばめられていく負の面が強い。国が保存を優先させた図書館を維持してゆくならば、都および区市町村では、利用できる保存資料を維持する図書館を深化・構築すべきであると考える。

注6.国立情報学研究所が提供する学術情報の総合目録データベース
注7.1950年以前の資料や10万円以上の資料を貸出し中止するなどのことをいう

3 分担収集・分担保存の限界

 【購入から除籍まで】
 その1冊の資料は、図書館にとってどのような意味を持つのだろうか。
 図書館は、利用する人々によって支えられる公共施設である。司書は、所蔵されるべきであると判断した資料を選択基準に照らして購入し、利用に供することをその本務としている。選択眼を備えた司書を擁する図書館が自治体ごとに設置され、毎年の図書費予算によって資料を揃え蔵書を構成していく。年を重ねるごとに蔵書の厚みは増していき、利用者に還元される。また、利用者の視点で選ばれた資料も蔵書に加わり、手垢のついた、されど貴重な資料群が各自治体の”顔”となって書架に並べられる。その間、書店に並ぶ日々の新刊書は売れなければやがて店頭から姿を消し、出版元に返品され、最終的には裁断処分される。図書館の蔵書として活躍した資料は、一定期間経過後に後続の資料と交代し、書庫に留め置かれる。こうして、開架書架に並ぶ蔵書の鮮度が保たれ、必要とあれば初期の資料が出納される。
 担当司書が、市場に流通する資料を「購入」しようとする判断は、その自治体、図書館に固有のもので、すべての図書館が一斉に同じものを購入するわけではない。しかしながら似たような購入判断をするケースは少なからずあり、一面で金太郎飴と評される所以でもある。多摩地域の図書館では、統計的には平均すると1タイトルあたり7自治体(同一自治体内での複本数は含まず)で購入されている計算になる(注8) が、実際にはひとつの自治体内でも複数の資料が購入されていると推定される。
 購入された資料は書架に並び、一定期間経過後、書架から除かれ(以下、除架という)、書庫に収納される。収納された資料は、いつでも利用者に渡せるシステムによって生かされている。この状態は「保存」と呼ばれ、各自治体が年限を区切って、または半永久的に資料を保管する目的で、書庫を運営している。もちろん有限なスペースである。どの資料をいつまで保存するかという選択は、書庫の逼迫度や時代による要求の変化を背負いながら司書集団が判断している。
 除架-保存には、司書の判断が必要であり、書庫から逆に書架に戻されるケースもある。いかに鮮度のよい書架を構成するか、かつ、いかに利用される書架を構築するかは永遠の課題だが、書架および書庫がその収容能力を超えるまで、購入-除架-保存が繰り返される。

注8.「ISBN総合目録多摩地域2005年5月版」(都立中央図書館編集・作成)より算出。延べ登録件数÷登録総タイトル数。

 【単純なリサイクルシステムからの脱却】
 出版された新刊図書は一定期間が経過すると書店店頭から返品され、しばらく在庫状態が続き、やがて処分される出版業界の現実がある。そうして絶版になってしまう図書も、出版点数の急激な増加に比例して拡大していく傾向にある。図書館では一定程度利用された資料が書庫に入り、やがて書庫スペースの制約から除籍=廃棄されている。大多数の公共図書館では、廃棄された資料は市民への無償配布という形でリサイクルされる。図書館友の会などで収益事業を展開している手法もある。冒頭で紹介したように、除籍49万冊のうち、実に37万冊がこれにあたる。
 購入した資料は、自治体にとって、公費で購入した住民の共有財産であり、処分するのにコストがかからないからといって、リサイクルを持ち出すのは安易過ぎるという批判もある。公費で購入した資料が簡単に無償で個人の所有となり、他の住民はその資料を二度と使うことができない状況を生み出しているとも言える。
 したがって現状のこのリサイクル措置は、徹底的に資料を活かし切ろうとする態度ではない。保存スペースがあれば棄てずに済むのであれば、是が非でもスペースを確保すべきである。
 その理由の一つは、これまで利用者が直接手にすることが少ない書庫資料のWeb予約による掘り起こしである。Web予約はどの図書館でも通常の図書館業務になりつつある。利用者が図書館のホームページから資料検索を行うとき、検索結果一覧から該当する資料を予約するが、予約制限がなければ周辺資料もついでに予約することになる。その結果、図書館側では、書庫にストックしていた資料を頻繁に取り出すことになる。書庫スペースが充分にとられていたかは自治体の判断により、図書館界ではあまり重視されてこなかったが、従来は動きの鈍かった書庫の資料が、現在では蔵書の回転率を底上げしていることを考えあわせると、書庫を拡張してでも利用を待ち受けるべきだという姿勢が再評価されることになる。
 保存書庫が図書館施設から離れた場所にあっても、スムースな物流が確立できるのであれば、自治体内の空き教室などの再活用にも弾みがつくわけだが、厳しい財政状況の下ではそれも進みにくい。一自治体単独では貸出と保存の両立は不可能であるという結論は動かし難い。ならば、広域的に処理するシステムの構築はどのように考えられるだろうか。

 【プロテクト策を考える】
 多摩地区の図書館では除籍作業がかなり進行している。ただし市町村側の除籍判断の根拠として、都立図書館で所蔵している資料だからという理由付けは、現在では通用しなくなっている。現在ある書庫限りの分しか保存しないと明言している都立図書館(注9) が、従来図書館界に定着してきた第二線図書館論(都道府県立図書館は区市町村立図書館をバックアップする機能を有する)から後退しているためである。バックアップ機能をレファレンスと人的支援に集中させ、都民への保存資料の提供としての協力貸出は、レファレンスのための提供に変換され、資料提供にも制限が加えられてきた。都立図書館が資料的バックボーンであると安心して想定できた時代は去った。書庫には限りがあるのだから、容量を超えた場合は、それまでの保存資料にも手を付けて除籍するという姿勢は、現時点では市町村側と同様だと言わざるを得ない。都立図書館が資料保存で綻び始めていることに連動して、都立図書館に頼ってきた市町村立図書館も除籍・保存の論理が破綻しはじめている。
 では、購入-除架-保存-除籍(廃棄)に代わる共同理念はなにか。資料管理の入口にあたる「購入」の判断が、各自治体の自主性に基づいたものであったにもかかわらず、出口にあたる「除籍」では、固有の判断のほかに、他を意識した判断が加味される。もはや、除籍担当者は、自自治体の判断だけで勝手に廃棄していいという立場を取れない。他の自治体にはもう存在しないという事実を突きつけられるとき、保存スペースは限界であるにもかかわらず、保存すべきとする考え方を受け入れざるをえない。この心理的な圧力を市町村間で共有しあい、一方的な資料の散逸を防ぐプロテクト機能を働かせる仕組み作りを考える必要がある。すなわち、購入-除架-保存-共同保存・共同利用サイクルへの変換である。「利用のための共同保存」について市町村立図書館の総意をあげて取り組むべきである。

注9. 2002年(平成14年)1月24日東京都教育庁「今後の都立図書館のあり方」および、2005年(平成17年)8月「第二次都立図書館あり方検討委員会報告-都立図書館改革の基本的方向」

 【分担収集・分担保存の限界】
 「利用のための共同保存」については、従来、分担収集・分担保存という手法が講じられてきた。周辺自治体と共同して資料を収集し、共同して保存する、または同一自治体内での保存について、分担・分散してひとつの総合的な蔵書とする手法である。
 このうち、「自治体間の分担収集」は、各自治体に一定枠の予算負担を要求することになり、極めて困難である。出版物の量や質の確保についてなど、「収集」に対する基本的な共通理解がなければ成立しないというリスクがあった。
 「自治体間の分担保存」は、資料価値に疑問をはさまず機械的に処理する必要があり、図書館本来の主体性が崩されることに疑問が残る。書庫が充分に確保されない以上、「分担」分が単純に重圧や足かせになる危険性が高く、小規模図書館ほどダメージが大きくなる。
 一方、「自治体内の分担収集」は、利用者への即時提供性が確保されないという不満の処理に追われることになる。分担し始めると変更が困難になることは容易に想像がつく。「自治体内の分担保存」は、各自治体の経営方針の問題に帰することができるが、自治体内でさえ、長期的に周到な保存機能の維持が求められれば、図書館機能を硬直化しかねない現状がある。
対象資料を雑誌に限定する場合は、「自治体間の分担収集」が、参加館の負担を分担しあう視点から、可能性を残す。また、永年保存資料の重複や廃刊雑誌の保存など、共同して「自治体間の分担保存」を実現する可能性は残されると言えよう。
 また、地域・行政資料については雑誌の場合よりもさらに、効率的な「自治体間の分担収集・分担保存」が可能である。
 大規模な「分担保存」については、都立図書館をこの輪の中に引き入れることをせずに実現することは困難である。ただし雑誌では、都立図書館の方針転換以前には、都立多摩図書館において市町村立図書館から雑誌の欠号補充や保存タイトルの吸収策を展開していた一時期があり、保存(所蔵)情報が公開された上で、都立図書館との分担方法の検討にも可能性を残しているということができる。

4 共同利用図書館の設置へ

 (1)共同利用図書館を提唱する
 【図書館資料は文化遺産である】
 多摩地域の市町村立図書館は、先の除籍調査報告書で明らかなように、2001年度(平成13年度)には年間49万冊におよぶ資料を除籍した。その後の別の全国調査(注10) でも、依然として50万冊の資料が除籍され続けていることが判明している。各図書館では、年に一度または数年に一度、曝書=蔵書点検を行っているが、そういう機会を捉えない限り、書庫占有資料の一括大量除籍は困難であろう。現実には極めて限られた時間内に行うしかなく、丁寧な点検・除籍が行われているとは言い難く、蔵書点検期間の短縮化とともに、ますます機械的な処理へと移行しがちな状況が浮かび上がってくる。かくして司書はいつの間にか、蔵書を廃棄することにあまり大きな痛みを感じられなくなってしまったのではないか。書庫に余裕がある時期は、1冊1冊をもっと丁寧に扱い、余程汚破損がひどくなければ書架に戻したであろうことは想像できる。

注10.『日本の図書館 統計と名簿 2004』による
 全国の図書館をリードしてきた多摩地域でさえ、正規職員の司書率が凋落傾向にある。PFIなどの運営方式を採用する自治体も出現してきた。多摩地域で図書館が整備された25年前と比較したとき、司書率は12.3ポイント下がって、49.8%(注11) になった。しかし、開館時間の延長などで総労働時間数は拡大しており、直接に資料の選定・除籍に関わらない労働量が増加し、本来求められているはずの仕事の丁寧さ慎重さが曖昧になってきている感は否めない。図書館のアウトソーシングをうたう自治体の増加を考えれば、見た目の充実感に対して、資料の保存やサービス理念など図書館が本来大事にすべき機能はどこへ流されていくのだろうか。

注11. 日本の図書館 統計と名簿 1979』『日本の図書館 統計と名簿 2004』による
 元前橋市立図書館長渋谷国忠は、「図書館は文化編集者でなければならない」との持論を展開した。戦後すぐのこの発言は、図書館を市民社会にいかに根付かせるかに苦心された氏の思いであった。巡回文庫に始まり、読書会、ユネスコ活動、萩原朔太郎顕彰など多彩な館外活動で知られるが、市民社会を形成するさまざまな文化活動を図書館が支援し組織化することを標榜した。今ある資料を残し後世に伝えていくことも”文化編集者”としての図書館の重要な使命である。図書館を通して編集された文化は、やはりわれわれが責任を持って守り育てて行かなければならない。
 また、公立図書館の資料が市民の共有財産である根拠は、税金によって運営される図書館であることから来ている。図書館の蔵書は、税金の使途としては数少ない現実の物理的なモノとして手に取れる存在である。その1冊が購入されるのにはどういう選書基準が働いているのか、また選書には市民の充分な理解・支持が必要であり、除籍についても、充分に市民の了解が得られる方策を考えるべきである。蔵書点検後、この前借りた資料を探して図書館を訪ねても廃棄されてしまっている事例は、資料をリサイクルに委ねる限り永久に発生する。同様に、多摩地域のすべての図書館から、その資料が捨てられてしまえば二度と手にすることができないことになる。自分の街の図書館にあった蔵書が最終的に多摩地域の市民の利用に役立つよう保存されるのであれば、共有財産化に有効な打開策を見出したことになろう。

 【共同利用への政策転換】
 1960年代後半から再スタートを切った我が国の公共図書館サービスは、貸出を伸ばす方策を探り、着実な歩みを続けてきた。開かれた図書館としての地道な活動は、草の根を分けても資料を探し出して提供するサービス理念を実現した。図書館にない資料はリクエストされ、選定基準の下で蔵書に加わる判断がされ、市民の書斎としての公共図書館が全国展開した。資料を公開する開架書架や資料を蓄積しておく書庫が整備され、区市町村立の図書館と都道府県立の図書館とが、互いに連携・協力し合い、市民一人ひとりに資料を届けるシステムがほぼ完成を見たと言っていいだろう。すでにコンビニ窓口での資料の受け取りや、宅配便による資料の取り寄せなど、貸出サービスの新手が次々に日の目を見ていることからも、利用する側の欲求は高まるばかりである。
 こうして区市町村立図書館にない資料は、都道府県立図書館や近隣自治体から借用できるシステムも市民は上手に利用して、学習意欲を満たしてきた。インターネットの普及はこれを飛躍的な物量に変換して、どこに住んでいても地域間格差を感じないほどに図書館が充実してきた。
 その一方で、想定外の新刊書があふれ、ますます本の寿命が短命化し、大量の資料が捨てられ、裁断されている。列車待ちの駅のホームでさえ文庫本はゴミ箱に放り込まれ、見向きもされない。日常生活を身近に支える道具が安易に捨てられるという状況は、「活字文化」と賞賛される個々の図書についても最早例外であることを許さない。文字・活字文化振興法(注12) がどこまで窮状を盛り返せるか未知数だが、新刊書さえもが中古市場に出回り、あふれた新刊書の大半はそのままではゴミと化さざるを得なくなっている。

注12. 2005年(平成17年)7月29日制定、法律第91号
 自治体によって運営される公共図書館が、手をこまねいて傍観者を決め込んでいるときではない。われわれは、智恵を出し合って、単純な廃棄資料の山を作らせない方策を講ずるべきであろう。各自治体単独での政策展開にはもはや展望はなく、広く連携した共同政策の立案が不可欠である。共同して資料を蓄積し、相互に利用しあえる事業へ政策転換することが求められている。

 【共同利用図書館を創設する】
 時代の生き証人として、同時代の中で意味を持った資料は、現代に生きるわれわれのみならず、後世の人々へも整然として保存され、引き継がれていくべき文化遺産であることを確認してきた。発行される書籍は一定数を販売した後、やがて店頭から消え裁断されるが、公共図書館では同じ書籍が時代を共有する市民間でさかんに反復利用され、蔵書として永く保存される。東京都には、全国の出版社の約80%が集中しており、出版産業が東京都の地場産業であるといっても言い過ぎではない。国立国会図書館への納本制度に参加している出版社は未知数だが、国が買い上げる資料ばかりが保存対象ではない。出版後の資料が一般市民に利用されたあと、どこかの公共図書館では永く保存されているという体制を作れれば、図書館はさらに信頼される施設になるであろう。
 多摩地域の図書館は小規模の図書館が多く、資料費も相当厳しい状況にある。一点集中的に大型館を有する自治体もあるが、資料費を分配した結果、同じ資料を相当重複して購入している傾向にある。一方、区立図書館は大型化して集中的に予算を投入しているが、結果的には、多摩地域の全図書館が購入するタイトル数と同等の資料数しか揃えられていない(注13) 。まして、同一市町村内での購入バランスを考慮している多摩地域と、同一区内にある図書館でも館独自の資料購入を実施している傾向にある区立図書館とを比較すれば、多摩地域の各図書館の資料選定は少ない予算を有効に活用していると言えるであろう。多摩地域30市町村の図書館が1年間に購入する資料は83万冊、除籍される資料も50万冊に達しており、区立図書館では、購入100万冊に対し除籍110万冊超(注14) である。したがって多摩地域でも、購入した分と同数の除籍資料が排出され、その中には都立図書館にも区立図書館にもない資料が含まれる可能性が高くなっていると推測できる。

注13. 「ISBN総合目録多摩地域2005年5月版」(都立中央図書館編集・作成)
注14. 『日本の図書館 統計と名簿 2004』による

 より効率的な資料保存のあるべき姿をモデル化し、出版された全分野の資料を網羅して利用のための保存を実践するため、「共同利用図書館」(共同保存・共同利用のための図書館)を創設する。加えて、これまでの市町村間の相互協力による経験を活かし、共同利用図書館での運営を維持していくべきである。日々の図書館の日常業務を継続し、現代の文化遺産=生き証人としての著作物を、いつでも利用できる財産として保存していくべきではないだろうか。
 図書館での、購入-除架-保存-除籍-市民リサイクルというこれまでの構図は、エコサイクルの中では自然に受け入れられてきた。しかし、この受動的な構図は、図書館が保存規定を曖昧にしてきたことに他ならない。自自治体での保存が限界に達したとき、まず市民リサイクルが優先権を持つのではなく、複数の公共図書館が参加した共同利用図書館での共同保存・共同利用が優先されるべきである。すなわち、”保存”を、共同で実現し、共同で”利用”していく方向に明確に規定しなおすということである。その先には、公共図書館のみならず、館種を超えた共同の広がりが展望されると明言できよう。

 【共同利用図書館のメリットと課題】
 共同利用図書館の発想は、欧米、とりわけ米国で展開され、特に「デポジット・ライブラリー」と呼ばれている。ボストン周辺では、倉庫業と運送業を本来の事業とする業者が大学図書館の古典籍資料を倉庫保管する形で進められる、参加図書館相互の利用を前提としない閉じられたデポジット・ライブラリーが存在する。マサチューセッツ州西部のアムハースト周辺では、州立大学と私立大学が寄付金を元手に、相互に利用可能な資料を共同管理するデポジット・ライブラリーが事業化されている。
 日本では、2004年(平成16年)4月から神奈川県立川崎図書館が「科学技術系外国雑誌デポジット・ライブラリー」を新たに構築し、運用を始めた。県内にある企業資料室等の保存スペースの狭隘化から廃棄を余儀なくされている学術雑誌を、県立川崎図書館の蔵書とし、横浜市港南区にある旧県立高校の教室を利用して整理・保存し、広く県民の調査研究に役立てようという試みである。
 われわれの提案する共同利用図書館の原資は、武蔵野市に一時預りとなっている都立図書館が放出した5万冊を整理した2.4万冊と、毎年市町村立図書館から除籍される年間50万冊におよぶ除籍資料である。50万冊と言っても1タイトルあたり平均7自治体で所蔵していると仮定すれば、実際には7万タイトル程度に縮減される見込みである。各図書館の書庫から毎年除籍処分される7万タイトル分の資料が一箇所に集められることが最大のポイントである。
 以上見てきたように、共同利用図書館は各自治体から除籍される資料で運営されるが、各自治体の図書館側から見直すと別の意味を求めることができる。
 市町村立図書館は、除籍資料の希少性や数の多さを考慮することなく、各自治体の判断によって、除籍を進めることができ、資料保存のスペース確保の重圧から開放される。そこでは、自館の閉架書庫は開架フロアをフォローする利用のための一時的なストックヤードとしての機能を存分に活用することができる。一時的なストックヤードとしての機能をさえ果たせない狭い書庫しかない場合には、図書館の一時的ストックヤード(スペース)を、共同利用図書館に一旦預けて、自館のスペースを拡張することも可能となる。この場合は、預けた資料も共同利用図書館の一時的な蔵書として活用することは可能である。
 また、共同利用図書館は、対市町村立図書館を対象として運営されるものの、個人利用者の利用とも無縁ではないであろう。市町村立図書館からの申込みを経て、個人の利用者宅へ宅配便配送することなども将来の視野に入れられるのではないだろうか。
一方、共同利用図書館運営の課題としては、所蔵データの整備と管理が挙げられる。所蔵と所在とがデータ上でも現物処理でも一致していることが望ましい。このため、独自にデータ管理を行うか、都立図書館での横断検索に参加することが可能か、または都立図書館所蔵データに付随することなども、今後の協議如何であろう。
 加えて物流の確保にも工夫が必要である。共同利用図書館から各自治体への物流とともに、自治体からの除籍資料の移動や一時的ストックヤードへの搬入など、倉庫・運送事業者のノウハウや宅配便事業者の活用など多角的な対応策が望まれる。

 (2)5万冊の処理を通しての方向性の確立 
 【町田市預りの5万冊のゆくえ】
 2001年(平成13年)10月、東京都立図書館は14万冊にのぼる資料の大量廃棄を発表した。この動きに危惧を抱いた職員・市民の手によって反対運動が展開され、都議会文教委員会審議に諮られたが、継続審議扱いとなり、事実上都立図書館の決定を覆すには至らなかった。それでも、一般資料約11万冊のうち半分の5万冊を、当協議会で協議の上、共同保存のために町田市で一時保管することに決定した。都立図書館は除籍=廃棄ではなく、さらに多種の施設などで再び活用される資料であると強弁して、「再活用資料」と位置付けた。これ以後、都立図書館は運営方針を大きく変更し、協力貸出業務を縮小し始めた。貸出期間の短縮やレファレンス資料・高価本・昭和25年以前の資料の停止など、瞬く間に対都民への貸出制限が始まったことは記憶に新しい。
 以来、4年間にわたり、5万冊は町田市の廃校になった小学校の空き教室に保管したままだったが、本プロジェクト内でワーキング・グループを立ち上げ、5万冊の処理の検討にあたった。この5万冊は、もとより当協議会が共同利用のための資料センターを提案した際には、その原資とすべく想定してきたものであり、共同利用図書館の実現が可能であれば、そのまま活用すべきものである。しかしながら、現状は、箱詰めされたままであった。
 そこで、まず5万冊の資料が、多摩地域の各図書館にどれだけ重複して所蔵されているのかを調査することにした。重複している分については、すでに所蔵している自治体に依頼して、保存シールを貼付し、しばらく保管・保存対象資料として扱っていただき、未所蔵だと判明した資料だけを別途保管する計画を立てた。第一段階として、5万冊を東京都の図書館横断検索にかけ、所蔵自治体を割り出すこと。第二段階として、所蔵自治体に保存資料へのシール貼付作業を依頼すること。第三段階として、町田市での箱開けによる未所蔵資料との選別作業。第四段階として、未所蔵資料の26自治体への分担保存である。こういう四つの段階を想定した。
 5万冊のデータ検索、資料の選別、仕分け、保存を行うにあたっては、基本的に2冊を保存資料として確保する方針を定めた。市町村で重複している資料は2自治体で保存にあたり、1冊しか所蔵が確認されなかった資料も5万冊からの資料と合わせて2冊保存とする。各自治体での資料の状態が判然とせず、レファレンス資料として貸出対象外であったりすることを考慮した。また、2冊保存の方針は、多摩地域の最後の1冊だけで資料の提供を保証することは困難であることから、共同利用に際しての保存方針へも引き継がれるべき意味を持っている。
 第一段階の横断検索については、5万冊のうち、4万冊を26自治体に分配して検索にあたり、残り1万冊を市民無償ボランティア40人の助けを借りて検索した。その結果、70%にあたる、約35,000冊が重複分と判明した(注15) 。このうち、1自治体のみの所蔵だったものが9,000冊に達し、これに多摩地域の市町村では全くの未所蔵であった15,000冊を加えた24,000冊については、武蔵野市に一時預かりとした。重複分から1冊ものを差し引いた26,000冊を、参加自治体で配分し、保存シールを貼付する作業が続く予定であったが、第三、第四段階を優先させ、この作業を今年度いっぱいかけて行うこととした。
 武蔵野市立図書館のご好意により、町田市の保管場所から武蔵野市図書交流センター(注16) へ作業場所の変更が行われた。町田市からダンボール1,600箱の搬送を行う間、選別作業に参加いただける市民ボランティア、学生らの募集を行った。同センターの3階の廊下および空き教室に散在するダンボール箱の山を見つめて、ため息ばかりついていたのも束の間、センターの多大なご協力もあって、みるみるうちに片付けられていった。センターで常時使用している選別室の書架に箱から取り出した資料を並べ、リストと照合して、重複分、1冊分、未重複分に3分類し、それぞれを箱詰めして、所定の教室に分散する単純作業ながら、立ったりしゃがんだりのかなりハードな作業が続いた。
一連の事業は、多摩地域の館長、職員延べ64名、有償ボランティア延べ91名を巻き込んで、都合6日間の作業が壮大に完結した。
 本報告書では、都立図書館には所蔵しているが、多摩地域の図書館には未所蔵である資料および1冊しか所蔵のなかった資料の合計約24,000冊の今後について、また、年間50万冊におよぶ除籍資料を多摩地域全体からスムースに共同利用図書館へ集積させるための仕組み作り、各自治体での除籍処理の統一的なマニュアルの作成などを事業内容とした、資料保存委員会(仮称)を2006年(平成18年)度早々に組織化することを提案する。

注15. 5万冊の重複データ調査結果を巻末に掲載した。
注16. 東京都武蔵野市桜堤1-7-25 旧桜堤小学校3階

 【武蔵野市での作業がもたらすもの】
 武蔵野市図書交流センターでの選別作業は、市民や学生ボランティアを動員して延べ6日間で無事終了した。作業を経験したボランティアたちの感想は、廃棄の運命にあったかもしれない資料が、センターを通じて活かされる道があることに安堵する一方、今後も都立図書館によるこのような措置が繰り返されねばならないのかという不安の声が多かった。先行するデータ検索に参加した上で現地作業にも加わった人たちは、現物の資料を手にとって見て、はじめてその分量の多さと、現物の頼りなさに驚きもし、逆に資料への愛着と、できることなら寿命を全うしてほしいという希望が強く出されていた。
 参加した図書館職員たちも、資料の来し方を想い、保存についての思いを一新させ、組織としてできることと限界とを感じ取ったと思われる。たかが5万冊、されど5万冊である。世に言うリサイクル対象の1冊1冊だが、リサイクルという美名と保存という極めて困難な事業との分岐点に立って、保存される資料の脆弱性、綱渡り的な危うさを再確認できたことは非常に大きな収穫であった。
 データ検索作業では、市町村立図書館側の古いデータがかなり曖昧であること、都立図書館が行政資料を仲介し配布した年代は市町村立図書館も蔵書としているが、配布がなくなると蓄積資料が途絶えてしまうなど、市町村立図書館側の資料収集の不透明感も時代によっては浮き彫りにされた感があった。やはり、データの標準化は立ち返るべき課題として、押さえておく必要がある。
 一連の事業に対して各図書館が感じたであろうことは、分担保存に対する限界性ではなかったか。現有所蔵資料との重複調査の結果を踏まえ、今後は各市町村の蔵書に保存シールを貼付して一定期間の保存を求めることになるが、最終的には各自治体の判断によらざるを得ない現状である。ただし、共同利用図書館の創設時期が明確であれば、そこまで維持するのは困難なことではないだろう。このたびの5万冊の処理では、重複分も一括保存する方法ではなく、所蔵自治体による分担保存方法に頼らざるを得なかったわけだが、保存スペースのない図書館も多く、そのリスクが現実に各図書館に突きつけられている。したがって保存問題の最もよい解決策は、分担保存ではなく、共同保存=共同利用図書館であることを実証できたのではないだろうか。
 今回の一連の取り組みは、多摩地域の図書館が全館協力して資料保存に取り組むという画期的な事業であり、その意義は大きい。共同利用図書館が多摩地域の全図書館に関わる共同事業として、展開できることを予想させる先行事業と言ってもいいであろう。その過程で市民参加を呼びかけ多くの参加を得たことも非常に貴重な経験であった。

5 共同利用図書館の具体的な設置方法

 【図書館の設置主体】
 今まで触れてきたように、多摩地域の市町村立図書館は書庫スペースがすでに満杯状態となり、図書館で毎年50万冊にも及ぶ図書を除籍し、市民リサイクルなどにより処理をしている実態にある。
除籍図書の中には、将来の利用が見込めるものや保存価値を有するものも含まれていることはすでに指摘した。これら除籍図書を一箇所に集め重複を避けるように精査し、集中して保存管理をはかり、多摩地域のどこの図書館の利用者からもリクエスト等により要求のあった図書を再利用できる体制を作っておくことを本報告では求めている。文化遺産としての図書を効率的に保存し、利用するための施設がここでいう「共同保存=共同利用図書館」である。
 この図書館は自治体の域を超えて設置することになるので、組織上の位置づけをどのようにして、設置の主体をどこが担うかを明確にしておかなければならない。自治体の事務を共同して処理するための組織として、まず考えられるのは一部事務組合の設置である。構成団体も都、区市町村を含めることができる反面、執行機関としての管理者の設置や議決機関(議会)を設けなければならず、手続きにも都知事の許可が必要である。さらにそれら組織の運営を担うための事務職員の配置等を考慮すると実現には相当の困難が横たわっていて、本報告の中で提唱するまでにはいたらない。自治体単独での維持が困難である課題を広域処理の視点で解決する手法は、広域連合や協議会方式など他にもあるが、一般的に今後の行政課題達成のためにも重要な視点であると捉えておきたい。
 図書館の分野では、1969年(昭和44年)の新全国総合開発計画以後、一部事務組合立による図書館運営が日の目を見た。資料保存の共同利用における組合立図書館は未だかつて存在していないが、現今の情勢では、”アウトソーシング”に代表される官外組織による運営が有力視される。共同利用図書館をアウトソーシングする、すなわちNPO等への委託という具体策をもって、共同利用図書館事業を展開することが方法としては最短距離にあると私たちは考える。この場合、市町村立図書館長協議会が主契約団体となるのは不可能であろうから、共同利用図書館の運営は、受託NPOと各自治体との個別契約によって成り立つと考えるのが妥当であろう。
 各自治体で除籍された資料がスムースに受託NPOへ移管されるべき事務手続きは、当館長協議会の責に負うところが大きい。市町村からの除籍情報に対して、当該自治体へ赴いて資料を選別し、その場で共同利用図書館には不要と判断された資料は、市民へのリサイクルに回すなり、共同利用図書館に回収しそこで古書市を開くなり、展開はさまざまであろう。共同利用図書館の本体業務は、市町村への資料提供であり、相互貸借の仲介であるから、契約自治体との間に個別に資料を急送することや、資源回収の便宜を図ることなども一任されよう。業務報告が次年度契約の主材料になるのはもちろん、ストックヤードの拡大などで民間事業者との提携化も模索できよう。

 以上のような検討を行った結果、NPO法人による設置を追求すべきであるとの提言をしたい。
NPO法人による保存図書館構想はすでに、多摩地域の図書館をむすび育てる会(以下、多摩むすび)が先進的に研究および発言をしていることであり、私たちの論点の整理も含め、会の保存図書館構想のうち設置主体=NPO法人についての内容をここで紹介しておきたい。
 注17.多摩地域の図書館をむすび育てる会編『東京にデポジット・ライブラリーを』ポット出版、2003年、p.78-80.
 経営の基本的な考え方(注17)
 (1) デポジット・ライブラリーを本来の目的・活動(本体事業)とする。
 (2) 運営の自主・独立、経済的自立。
 (3) 質の高いサービス・事業の実施。
 (4) 専門的能力を持つ人材の確保。
 (5) 行政とのパートナーシップで事業を実施する。

 
 【図書館の設置場所】
 NPO法人による運営を提案するからには、共同利用図書館の設置場所を特定することは避けるべきであるが、ここでは、地理的条件等を勘案した場合に、どの様な条件が必要であるかを述べておきたい。
 各図書館からの除籍資料の精査作業、集中保存機能、再活用のための提供機能、配送システム、連絡調整機能などを考慮すると、以下のような条件が指摘できるであろう。

 (1) 交通の便がよく、迅速な提供がはかれること。
 (2) 将来蔵書数が増大することに対応できるように保存スペースの拡張がはかれること。
 (3) 地震等の災害に対して安全であること。
 (4) 地価が安いこと。
 これらのことを勘案すると、都市機能が集中する市街地よりも、市街地に近い郊外で比較的交通の便が良いところが求められよう。具体的な候補地はあげられないが、廃校となった学校跡地、用途変更の定まっていない公共用地などがよいであろう。

 【市町村の共同出資、NPO法人運営による試案】
 共同利用図書館は、市町村からの除籍資料に流れを与えた結果として、樋をつたって水が枡に流れ込むように資料が蓄積され、装いを一新して再び貸出利用の最前線に戻っていくことを意味している。そのための運営母体として、市町村が出資・設立し、運営をNPO法人に委託する形を具体的な提案として示したい。
 このとき市町村が連合してNPO法人に委託する形は、一部事務組合などの手法を用いても、付帯する議会なども併せて組織化を協議しなければならず、事実上困難である。また、負担比率についても各市町村議会での議決を必要とするため、どのような負担を求めるのかが論議の対象となり、財政規模の小さい自治体に不利である。
 そこで、各自治体が個別にNPO法人との契約を行う方法をとることで、利用度合いに応じた措置、あるいは財政負担の軽減化が図られよう。順当に考えれば、費用総額の50%を参加自治体で均等に負担し、50%を人口比率で負担しあうのが一般的であろう(p.27、年額負担表参照)。
 本プロジェクトにおける、共同利用図書館の概要を以下のように設定し、試算してみた。
 集密書架の規模を、当初50万冊収容可能な施設と考える。年間49万冊の除籍実態を、1タイトルあたり7自治体での購入計算から逆算し、年間7万タイトルが除籍されると仮定する。5万冊の処理にあたり、1タイトル2冊を保存するとしており、7万タイトル計14万冊が共同利用図書館に収容されると計算できる。50万冊の書庫では、4年を待たず満杯になるが、共同利用図書館開設後の購入実績や除籍実態を検討する期間として、4年間の目安を設定した。この4年間の収支計算が見合うならば、その後に予測される書庫の拡大や経費の見積りに解決方法が見出されるのではないかと期待している。具体的にはPFI事業化の推進、企業の寄付金を仰ぐ方法や冠企業との連携・合体などである。
 さて、NPO法人が土地を取得して自前の施設を建設するとなると、多摩むすびの試算した16億円余の初期投資が必要(注16) になり、初年度投資としては大変に困難な事業である。

注16. 多摩むすび、前掲書、p.65

 そこで、第1案として貸し倉庫内に書架を設置し、そこから資料の搬送、集荷を行う計画案を提案したい。運営に当たる専従職員を3名、施設管理費・光熱費・通信費を概算して、5, 925万円の支出で収支計算をシミュレーションしてみた(p.27「賃貸物件による運営(NPO法人との個別契約方式を想定)費用概算」参照)。この金額は、多摩地域30市町村の資料費総額14億6600万円の、4.0%にあたり、30市町村で均等に負担しあうと仮定すると、1自治体あたり200万円弱の計算になる(p.27、28「同、年額負担表」参照)。
 費用負担については、借用資料数や自治体人口を基礎データにする場合や、利用頻度(試算表の借受冊数は参考データ)と貸出数を相殺するようなデータを加える方法、4町村の負担を軽減する方法など、各自治体との個別契約を基本とした場合は、NPO法人の裁量で、できるだけ公正な契約金額を算定することが可能になるものと予測される。ここでは、参加自治体の均等負担と人口比率負担で算出した合計額から、各自治体の出資額を求めたい。
 この試算値に対し、東京都が資金参加する方法や、遊休施設の無償提供などが加われば、市町村の負担はさらに大幅に軽減できることも事実である。
 そこで第2案として、統廃合された小学校校舎などに書架を設置する計画案を示してみる。諸条件を第1案とほぼ同等と仮定するが、貸し倉庫に関わる賃貸料がかからないこと、教室単位で単立の書架を置くこと、部屋別の省電力化が図られることなどを試算すると、総額3,096万円、1自治体あたり103.2万円に縮減可能となる。この場合は、公有施設の無償提供(光熱水費等を除く)が前提となる(p.29、30「公有施設による(NPO法人との個別契約方式を想定)費用概算」「同、年額負担表」参照)。多摩地域の人口400万人では1人あたり、7.7円である。
 残された課題は、各自治体の除籍資料をいかに、NPO法人組織に流通させるかであろう。
 市民へのリサイクルが定着して、どこの自治体でも無償またはわずかの金額で販売する例があり、広く市民に受け入れられている。市町村から一旦、NPO法人に流れ込んだ資料を、NPO側で整理し各市町村立図書館に返却するか、あるいはNPO側で販売会を開くなど、NPOの事業展開に委ねる方法も有効であろう。
 以上のことから、多摩地域の公立図書館は、いまこそ総力を上げて、共同利用図書館の創設に尽力するべきであるという提言を公にするものである。
賃貸物件による(NPO法人との個別契約方式を想定)費用概算
A.施設賃貸料(金額)
 A社物件、貸倉庫                               
 例)八王子市美山町(323,12坪、1066.3㎡、1-2階)
 賃料600,000円/月×16ヶ月(敷礼金4ヶ月)9,600,000
B.書架リース料
 B社見積り、50万冊収容の電動書架、11㎡×7㎡=77㎡(1ユニット)×10ユニット=770㎡必要
 総額2億円超、5年リースで、390万円/月。
 ハンドル式の場合で、約2/3=260万円/月×12ヶ月31,200,000
保守委託料(年)890,000
C.運送費
ゆうパック使用(サイズ60、2万個以上割引)                 69,000冊*÷3冊/回×385円8,860,000
回収便委託、10,000円/日(1コース)×5日×50週 (週1回回収、除籍資料も同時に回収)2,500,000
*積算データ:都立・区市町村立図書館からの総借用数、136,724冊(2004年度、市町村総借用数)
市町村間の総借用数は、市町村間分を1/2と仮定して、69,000冊
D.NPO社員
 3名×100,000円/月×12ヶ月3,600,000
 
E.光熱費(電気・ガス・上下水道)1,500,000
F.施設維持管理費600,000
G.消耗品・PC・電話FAX費500,000
 
A~G合計59,250,000
 
 30市町村で1自治体あたり 197,5万円
 
H.その他
データは、設置自治体の電算システムに組み入れ、Web OPAC検索、 予約で対応
賃貸物件による(NPO法人との個別契約方式を想定)年額負担表
【解説】総額の50%を参加自治体で均等割し、50%を、(A)人口比率で負担、(B)借受冊数による従量制で負担するとした場合の各自治体の年額負担金。本報告では、太枠数値を推奨(本文p.27参照)。
人 口自治体名26市+(A)26市+(B)30市町村+(A)30市町村+(B)自治体名借受冊数
553,462八王子市  5,260,3276,469,1455,048,2383,301,614八王子市  10,680
170,889立川市   2,410,3022,852,4242,239,8232,546,060立川市   7,193
136,509武蔵野市  2,158,2942,159,5711,991,4942,111,621武蔵野市  5,188
177,362三鷹市   2,459,7582,420,7982,288,5572,071,969三鷹市   5,005
142,361青梅市   2,193,1521,679,4872,025,8431,604,163青梅市   2,846
240,553府中市   2,951,1763,374,3882,772,8002,527,425府中市   7,107
109,619昭島市   1,954,5641,746,5221,790,7391,905,344昭島市   4,236
214,032調布市   2,739,9553,134,8042,564,6632,499,474調布市   6,978
405,008町田市   4,164,2795,293,0633,968,1923,222,743町田市   10,316
114,137小金井市  1,986,6981,781,7341,822,4041,908,378小金井市  4,250
183,551小平市   2,499,4872,498,5652,327,7062,109,455小平市   5,178
174,108日野市   2,435,7742,282,9202,264,9231,959,730日野市   4,487
145,582東村山市  2,222,8732,112,8942,055,1302,001,983東村山市  4,682
115,622国分寺市  2,011,1342,216,6721,846,4822,312,915国分寺市  6,117
73,441国立市   1,682,0511,875,4971,522,2052,300,997国立市   6,062
61,091福生市   1,589,928937,0831,431,4261,467,006福生市   2,213
77,695狛江市   1,720,1071,507,2281,559,7051,900,578狛江市   4,214
80,248東大和市  1,732,9871,219,5421,572,3971,604,380東大和市  2,847
72,982清瀬市   1,685,9601,443,3971,526,0561,871,326清瀬市   4,079
114,520東久留米市 1,989,3781,741,3191,825,0441,865,909東久留米市 4,054
66,356武蔵村山市 1,636,5781,197,6691,477,3951,677,833武蔵村山市 3,186
146,333多摩市   2,219,8972,276,8012,052,1982,166,441多摩市   5,441
75,591稲城市   1,706,8421,319,8231,546,6331,728,969稲城市   3,422
56,388羽村市   1,556,6841,240,0241,398,6671,798,306羽村市   3,742
79,950あきる野市 1,733,4831,231,4711,572,8861,615,647あきる野市 2,899
187,819西東京市  2,548,3433,237,1622,375,8482,789,172西東京市  8,315
33,740瑞穂町  1,233,6761,189,226瑞穂町   931
16,118日の出町  1,103,6321,102,988日の出町  533
3,004檜原村  1,008,7771,009,167檜原村   100
6,904奥多摩町  1,036,4301,079,154奥多摩町  423
4,034,975 59,250,00959,250,00059,249,97059,249,970 136,724
3,975,209262,278,8462,278,846   
 30  1,974,9991,974,999 
「人口」は「東京都の人口-推計-」、2005年10月1日現在
公有施設による(NPO法人との個別契約方式を想定)費用概算
A.施設賃貸料・・・なし(金額)
 
B.書架リース料
50万冊収容相当の単立書架(1連7段×2、W1830×D474×H2225)
139,860円×400セット、5年リース、106万円/月×12ヶ月13,400,000
保守委託料(年)500,000
 
C.運送費
ゆうパック使用(サイズ60、2万個以上割引)                 69,000冊*÷3冊/回×385円8,860,000
回収便委託、10,000円/日(1コース)×5日×50週 (週1回回収、除籍資料も同時に回収)2,500,000
*積算データ:都立・区市町村立図書館からの総借用数、136,724冊(2004年度、市町村総借用数)
市町村間の総借用数は、市町村間分を1/2と仮定して、69,000冊
 
D.NPO社員
 3名×100,000円/月×12ヶ月3,600,000
E.光熱費(電気・ガス・上下水道)1,000,000
F.施設維持管理費600,000
G.消耗品・PC・電話FAX費500,000
A~G合計30,960,000
30市町村で1自治体あたり 103.2万円
 
H.その他
データは、設置自治体の電算システムに組み入れ、Web OPAC検索、 予約で対応
賃貸物件による(NPO法人との個別契約方式を想定)年額負担表
【解説】総額の50%を参加自治体で均等割し、50%を、(A)人口比率で負担、(B)借受冊数による従量制で負担するとした場合の各自治体の年額負担金。本報告では、太枠数値を推奨(本文p.27参照)。
人 口自治体名26市+(A)26市+(B)30市町村+(A)30市町村+(B)自治体名借受冊数
553,462八王子市  5,260,3276,469,1455,048,2383,301,614八王子市  10,680
170,889立川市   2,410,3022,852,4242,239,8232,546,060立川市   7,193
136,509武蔵野市  2,158,2942,159,5711,991,4942,111,621武蔵野市  5,188
177,362三鷹市   2,459,7582,420,7982,288,5572,071,969三鷹市   5,005
142,361青梅市   2,193,1521,679,4872,025,8431,604,163青梅市   2,846
240,553府中市   2,951,1763,374,3882,772,8002,527,425府中市   7,107
109,619昭島市   1,954,5641,746,5221,790,7391,905,344昭島市   4,236
214,032調布市   2,739,9553,134,8042,564,6632,499,474調布市   6,978
405,008町田市   4,164,2795,293,0633,968,1923,222,743町田市   10,316
114,137小金井市  1,986,6981,781,7341,822,4041,908,378小金井市  4,250
183,551小平市   2,499,4872,498,5652,327,7062,109,455小平市   5,178
174,108日野市   2,435,7742,282,9202,264,9231,959,730日野市   4,487
145,582東村山市  2,222,8732,112,8942,055,1302,001,983東村山市  4,682
115,622国分寺市  2,011,1342,216,6721,846,4822,312,915国分寺市  6,117
73,441国立市   1,682,0511,875,4971,522,2052,300,997国立市   6,062
61,091福生市   1,589,928937,0831,431,4261,467,006福生市   2,213
77,695狛江市   1,720,1071,507,2281,559,7051,900,578狛江市   4,214
80,248東大和市  1,732,9871,219,5421,572,3971,604,380東大和市  2,847
72,982清瀬市   1,685,9601,443,3971,526,0561,871,326清瀬市   4,079
114,520東久留米市 1,989,3781,741,3191,825,0441,865,909東久留米市 4,054
66,356武蔵村山市 1,636,5781,197,6691,477,3951,677,833武蔵村山市 3,186
146,333多摩市   2,219,8972,276,8012,052,1982,166,441多摩市   5,441
75,591稲城市   1,706,8421,319,8231,546,6331,728,969稲城市   3,422
56,388羽村市   1,556,6841,240,0241,398,6671,798,306羽村市   3,742
79,950あきる野市 1,733,4831,231,4711,572,8861,615,647あきる野市 2,899
187,819西東京市  2,548,3433,237,1622,375,8482,789,172西東京市  8,315
33,740瑞穂町  1,233,6761,189,226瑞穂町   931
16,118日の出町  1,103,6321,102,988日の出町  533
3,004檜原村  1,008,7771,009,167檜原村   100
6,904奥多摩町  1,036,4301,079,154奥多摩町  423
4,034,975 59,250,00959,250,00059,249,97059,249,970136,724
3,975,209262,278,8462,278,846   
 30  1,974,9991,974,999 
「人口」は「東京都の人口-推計-」、2005年10月1日現在
 
おわりに

 本プロジェクトは、約2年間の討議を経て、報告書に形を変えることができた。この間、町田市預かりの5万冊のデータ処理や、武蔵野市へ場所を移しての開封作業、市町村で所蔵していた5万冊との重複資料への保存シールの貼付作業などを行った。
 市町村職員と市民との共同作業が成功し得たのは、都立図書館の再編問題に端を発した大量除籍問題に対して、一応の収束を果たしえたからに他ならない。職員と市民との陳情活動は十分には奏功しなかったものの、町田市への5万冊移管として受け止める手立てが残されており、また、武蔵野市図書交流センターでの作業が、これまでの煩悶を解消する共同体験として、胸に刻まれたからではないかと推測される。
 資料保存への執着を、さらなる共同体験の場として捉えなおし、引き続き今後の広い論議を待ちたいと考える。
 最後になりましたが、町田市立中央図書館、武蔵野市立中央図書館ならびに武蔵野市図書交流センターの多大なるご尽力に感謝申し上げる次第である。

 2006年(平成18年)2月
 東京都市町村立図書館長協議会
 除籍資料再活用プロジェクト

プロジェクト検討経過

検討内容開催日時 開催地
第1回   目標の設定2004年7月23日 日野市立百草図書館
第2回課題の整理2004年8月19日 立川市中央図書館
第3回課題1の検討:「分担収集・分担保存は先がない」を証明できるか 2004年9月29日 同上
第4回同上2004年10月21日 日野市立中央図書館
第5回課題2の検討:ネットワークの強化策について具体策を練る2004年11月17日 同上
第6回同上2004年12月22日 同上
第7回課題3の検討:共同保存・共同利用の考え方を整理する2005年1月26日 同上
第8回同上、5万冊について2005年2月16日 東京都多摩教育センター
第9回講義「図書館の共同保存システムに関する研究-三つのシステムを事例に-」      2005年3月23日 武蔵野市立中央図書館
第10回中間報告、事業計画2005年4月27日 東京都多摩教育センター
第11回課題3の検討2005年5月11日 同上
第12回同上2005年5月25日 日野市立中央図書館
第13回課題4の検討:都立図書館の役割を整理する2005年6月15日 同上
第14回同上2005年6月29日 同上
第15回同上、5万冊について2005年7月13日 東京都多摩教育センター
第16回課題5の検討:金と人と場所2005年7月27日 日野市立中央図書館
第17回報告書の骨子について2005年8月26日 立川市中央図書館
第18回報告書の内容について2005年10月5日 同上
第19回同上2005年11月2日 同上
第20回同上2005年11月18日 日野市立多摩平図書館
第21回同上2005年11月29日 同上
第22回同上2005年12月6日 同上
第23回同上、5万冊について2005年12月22日 同上
第24回同上、5万冊について2006年1月20日 同上
同上プロジェクトメンバー2004年(平成16年)~2005年(平成17年)
氏  名所    属   
小池 博西東京市中央図書館 会 長
小柳津 隆行羽村市立図書館副会長
藤澤 和男日野市立中央図書館事務局長
手嶋 孝典町田市立中央図書館館長
平 茂夫多摩市立永山図書館実務者委員会
中村 照雄八王子市立中央図書館同上
坪井 茂美府中市立中央図書同上
松尾 昇治昭島市民図書館多摩地区図書館サービス研究会
斎藤 誠一立川市中央図書館同上
中川 恭一西東京市下保谷図書館同上(事務局)
多摩地域の共同利用図書館の設置に向けて除籍資料再活用プロジェクト報告
2006年(平成18年)2月15日編集発行
東京都市町村立図書館長協議会 除籍資料再活用プロジェクト事務局
西東京市中央図書館
〒188-0012 東京都西東京市南町5-6-11TEL.0424-65-0823 FAX.0424-63-9150
【記録】除籍資料再活用検討プロジェクトチーム報告書

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