研究所設立までの経緯

三多摩図書館研究所については、「東京・多摩地域における公共図書館員のグループ研鑽」(『現代の図書館』34巻2号 1996年6月)の中で報告しました。以下は、『図書館研究三多摩』創刊号に掲載された三多摩図書館研究所の紹介文と規約です。なお、三多摩図書館研究所の「三多摩」ですが、これは東京都の区部・島嶼を除く地域、即ち北多摩・西多摩・南多摩の3つの地域の総称としての「三多摩」からとりました。この地域には現在26市・3町・1村の自治体があります。
北多摩   昭島市清瀬市国立市小金井市・国分寺市小平市狛江市立川市調布市西東京市東久留米市東村山市東大和市府中市三鷹市武蔵野市武蔵村山市
西多摩あきる野市青梅市奥多摩町羽村市日の出町檜原村福生市瑞穂町
南多摩稲城市多摩市八王子市日野市町田市
青色で囲んだところが三多摩地域
研究所の誕生 -調布市委託問題-

調布市で、大規模中央図書館の建設を契機に図書館の委託提案がありました。サービス体制の充実と人員増は、現在の図書館が直面する大きな矛盾であり、委託はどこでも起こりえる問題として多摩でも表面化しました。この問題に対する多摩の図書館員の対応は機敏で多彩でした。調布の事情を探り、独自に学習会を開催し、集会に参加しました。駅頭での署名集めや、チラシの戸別配布、さらに「調布の図書館をもっともっとよくする会」が発行した委託問題を考えるパンフレット『Q&A』の作成にも関わりました。「公立図書館の管理委託を考える」実行委員会を組織し、シンポジウムと三回の連続学習会を企画し実行しました。シンポジウムと連続学習会は、理論的な解明とともに運動としても大きな成果を上げました。四回の集会に、延べ547名の参加者があり、労働組合からもさまざまな支援がありました。多摩地域での図書館員・住民による主体的な運動の可能性を明らかにしました。また、1994(平成6)年7月には報告書『公立図書館の現在と未来を問う』を発行しました。実行委員会メンバーは、この運動によって多摩地域の図書館員の課題が明確になったと考えました。この課題について、報告書の編集後記で次のように述べています。「多摩地域の図書館員の専門性形成と図書館経営・サービスの現状を厳しく点検し、新たな展望を切り開く図書館政策と実践を創造し、自己変革を遂げてゆく。」 このような課題は、現場の図書館員が自分たちの職場に足をつけ、自分たちで考えることを通じてこそ達成できるものです。実行委員会のメンバーは、三多摩の図書館をテーマにした年刊の雑誌を発行し、図書館政策をまとめることを目標にした運動を「三多摩図書館研究所」として始めました。
研究所の目的と活動

研究所の規約では目的を次のようにしています。「主に多摩地域の公共図書館に関する調査、研究活動を行い、多摩地域の現状に根ざした図書館政策の創造をめざす。このような活動を通じて、多摩地域に働く図書館職員の専門的力量を高めるとともに地域的な専門職集団として公共図書館の進歩発展に寄与する」 研究所は大澤正雄(旧田無市、現在の西東京市在住。なお、大澤初代所長は2021(令和3)年に他界し、現在戸室幸治が2代目所長となっています。)を代表として、日野市立中央図書館(注:現在は日野図書館)で月例の会を開いています。メンバーは、個人またはグループごとにテーマを持ち、1年間に少なくとも1本の論文を書いて雑誌に掲載することを目指します。月例会では、研究の進捗状況の報告を行っています。この研究成果を掲載する雑誌の発行を、1996(平成8)年7月に予定しています。(注:『図書館研究三多摩』の名称で、2022(令和4)年6月現在で第12号まで刊行しています。) 1995(平成7)年12月と翌年年4月には、研究所例会(研究の中間報告会)を開催しました。多摩の図書館員・住民に参加を呼びかけ、あわせて約70名の参加がありました。
研究所運動の可能性

多摩地域の図書館活動の到達点は、歴史的な経過と条件によっており、全国的な取り組みでは、多摩の状況に合致した政策にはなりえない。現場の図書館員の研究、研鑽によってこそ、多摩における図書館政策を展望することができる。多摩地域では、70年代前半の図書館振興政策によって多くの自治体で図書館が建設されました。現在、各館で実質的に運営の中心になっているのはその当時に入職した世代、40代で図書館経験、20年の職員です。この世代がひとつの層として存在し、公的、私的な研修や運動を通じて地域的な集団を形成していることが多摩の特色です。有効な図書館政策が求められており、その課題に応える意志と能力を持つ職員集団が存在する。そこに研究所運動の可能性と責任があります。(『図書館研究三多摩』創刊号より。一部補足修整しています。)

研究所設立までの経緯

トップへ戻る